表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/360

第百六十二話 少女たち(三)

 また一斉に華やかな歓声が上がり、土手の下にいた紫野と雪も、今度は顔を上げてその方向を見た。

「あら、お珠ちゃん……」

 珠手が一足先に土手を登ろうとしている。

 何だか慌てているらしく、あと一歩のところで足を滑らせた。

「危ない!」

 驚いて雪が叫んだその時、疾風の手が珠手をしっかりつかみ無事に引き上げたのが見えた。

「俺たちも行こう」

 紫野が差し出した手を、雪はほっとしながら、「うん」と言って握ると、ともに菜の花の中を駆け出してゆく。


「ふぅん……」

 その様子を土手の上から見下ろす聖羅は、ちらりと自分の腕にすがるりんに目を走らせた。

 (――やっぱり雪の方が、断然可愛い)

 その雪は、紫野としっかり手を握り嬉しそうな笑顔を見せている。

 あの頭の上の丸髷が、なんと愛らしいことだろう!

 そして紫野の長い黒髪も艶やかに輝き、菜の花に囲まれた二人は、思わず見惚れるほど美しかった。

 (もしも紫野が女だったら……疾風はどう思うだろう? やっぱり『俺の女にする』と言うだろうか)

 ぼうっとそんなことを考えていると、いきなり尻を撫で上げる手を感じ、聖羅はびくりとした。

 りんが意味ありげな瞳で自分を見ている――そう、まるで熱を持ったような、女の瞳で。


「よう、紫野。おまえも何か披露するか?」

 なぜか珠手にしがみつかれたままの疾風のその言葉に、紫野は「はぁっ?」と首をかしげ周りを見渡した。

 そして七間先の木に突き立っている剣と矢を見、なるほど、と思ったようである。すっ、と顎を引いた。

 雪が「危ないことはしないで」というように、ぎゅっと紫野の手を握る。

 その思いを汲んだかのように、紫野はにっこりと雪を見、それから疾風に言った。

「じゃ、俺はあそこまで行って、剣と矢を取ってくる」

 言うなりあっという間に走り出し、空中に跳躍した。

 はっと気づいた時、紫野の姿はどこにもない。

 皆目の前の木を凝視した。

 すると、その木の上から一回転して地面に降り立った紫野が、今まさに矢と剣を抜こうとしていた。

 そう、一瞬で七間を跳躍した紫野は、そのまま木の上に飛び上がっていたのである。

 まず矢を抜いた紫野は、剣を抜くのに苦労したようだったが、ようやく両方を無事手にするとそれを振りつつ、にこにこしながらゆっくり歩いて戻ってきた。

 息も乱れていないその様子に娘たちは皆驚きで声もなかったが、雪はひとり手を打って、

「紫野、すごい」

 とはしゃいだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ