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第百五十二話 カゼキリ、ハナカゲ、ナガレボシ

 約束どおり、高香はこの夏ずっと草路村に滞在し、紫野を喜ばせた。

 むしろ警固衆の一員になった紫野の方が警邏に同行するため村をあけることが多くなったのは、皮肉なことであった。


「ただいま、高香」

 寺へ帰ると真っ先に高香のもとへ飛んで行き、そう声を掛ける。

 すると、たいていミョウジと碁をさしているか話をしている高香が振りかえって、

「おかえり、紫野」

 と答えてくれるのだ。

 何となく甘酸っぱい思いが胸いっぱいになり、紫野は小躍りしながら自室へ向かう。

 そこでごろりと転がって蝉の声を聞きながら、目を閉じ、ミョウジと碁を終えた高香が訪ねてくれるのを待つのだった。

 

 裏庭でヒヒーン、と馬の声がする。

 嘉平次にもらった白馬、ハナカゲだ。

 (――いや、ナガレボシかな?)

 ぼんやりと、思った。


 薄い栗毛のナガレボシは、聖羅の馬である。

 聖羅の家には(うまや)になるような場所がないし、お爺とお婆が馬を恐がるので、当分寺に置くことになった。

「すまぬ。しょっちゅう会いに来るからな」

 聖羅は馬の首を撫でながら、本当に残念そうに言った。

「大丈夫。ハナカゲといるから寂しくないって」

 紫野がそう言うと、聖羅は、

「そうだな。ひとりより、いいよな」

 やっと笑顔になった。

 すると疾風も艶々とした黒毛を持つ自分の馬を見て、

「それじゃあ、カゼキリも置いていこうか」

 とぼそっと言う。

 それを聞いて慌てたのは作造だ。

「と、とんでもない、二頭で十分じゃて。わしに押し付けないでくだされや」

 泣き出しそうな顔に、思わず三人は吹き出してしまったことだった。


 それから、比較的乗りなれた様子の疾風と、何となくまだ危なっかしい感じの聖羅を乗せて、カゼキリは尾を振り上げながらゆっくりと山道を下っていったが、その後ろ姿を見ながら、紫野はまた可笑しくてひとりで笑っていた。

 (聖羅。ふふっ。あんなに疾風にしがみついて。格好悪いなぁ……)

 その心の声が聞こえたのか、疾風にしがみついたまま、聖羅が顔だけをこちらに向けた。

 と、そのとたん、カゼキリの長い尾がその顔をはたき、聖羅が「ひゃあ」と声を上げる。

 そして落ちかけた聖羅を疾風が慌ててつかんでいるのを見て、紫野は今度こそ腹を抱えて大笑いした。

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