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第百四十六話 それぞれの才

 井蔵はあの野武士の襲撃以来、疾風、聖羅、紫野の剣の才を、以前にもまして伸ばすことに力をいれていた。

 他の子供たちの指導は藤吉と翔太に任せ、自分は三人を山の荒地で修行させていたのだ。

 それは、侍として武具に守られ平地で戦うことよりも、忍びとして自然と一体になって戦うことに重点を置いたやり方であった。

 三人とも、じつに身軽である。忍びの素養としては申し分ない。

 さらに武器の遣い方もなかなか様になっている。

 兼じいの剣はすでに体の一部になっていたし、幼い彼らの適応能力には目を見張るものがあった。


 今日も三人は小高い丘の上から木を伝って滑り降りたり、岩伝いに一気に駆け上がったりして、まるで遊戯のように楽しそうに訓練している。

 手にしているのは兼じいの剣だ。

 広原の稽古場では木刀ししか許可しなかった井蔵だが、本当は普段から真剣を遣った方が上達が早いことは心得ている。その方がお互いより気を集中させ、かえって怪我もしないというものなのだ。

 斬るか斬られるか、そのぎりぎりの間合いを、文字通り体得することが出来る。

「斬り込む時は声を掛けろ! 足元はいちいち見るんじゃねぇっ――最初の一発で、地形はすべて頭に入れておくんだ!」


 まるで小猿のように飛び跳ねる三人を見ながら、今また井蔵はあの野武士襲来の夜のことを思い出していた。

 疾風と聖羅の剣さばきはこの目で見ている。

 疾風は無駄のない、しかも判断の早い剣だったし、聖羅は急所を的確に突くことに長けているように思われた。

 紫野の剣遣いは見ていないが――しかしあの斬り口から大方の想像はつく。かなり高い位置から、かなりの速さで斬ったに違いないのだ。 

「うならせやがる……」

 じっくりと、井蔵は、三人それぞれの特徴を見極めようとしていた。


 ――まず、疾風。こいつは肩が強い。足腰も頑丈だ。もっと握力と筋肉がつけば、相当重い剣も振りまわすことが出来るだろう。重い剣は攻撃力が違うからな。……よし、今度兼じいに相談してみるとするか。疾風には大振りの剣が似合いだってな。


 ――次に、聖羅。こいつの腕の長さは飛び道具向きか? いや、だがあの剣遣いを見ろ、たいしたもんだ。風を切るように、左手で自由自在に操っていやがる。自作の鞭は、たしか右手で繰り出していたな。……ふん。相変わらず、狙いが的確だ。こいつぁ、両刀でいけるだろう。


 ――最後に、紫野。何といってもこいつの長所はあの跳躍力だ。今でも四尺は飛んでいる。訓練すれば、七尺は軽いだろう。それに集中力は三人の中でぴか一だ。攻撃の最中に余計なことを考えない、これが生死を分けることがある……。ただ、力はあまり強くなさそうだ……そうだ、細身の剣を背負わせてみたらどうか?


 何となく井蔵の前に、将来の三人の姿が浮かんでくるようで、井蔵は嬉しくなった。

 紅葉の中、腕を組み三人に指示を与えながら、ふっふっとひとりほくそえむのであった。

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