第百四十話 白い影(四)
一夜をかけて井蔵たちは村を捜索したが、それ以上の野武士は見つからなかった。
野武士たちは皆、大挙して源平太の家に押しかけたと見える。
源平太の家から離れた場所で死んでいたのは、あの茶筅髷の男と――あと一人だけであった。
その男を発見した時、皆凍りついた。
顔が半分、なかったからである。
「紫野!」
林の中に白い影が見え、それが紫野だとわかった時、疾風は声を上げた。
走り寄ると、紫野は、座り込んで声も出さずに泣いているのだった。
「紫野、どうした。伊吹はどこだ」
紫野が指差す方を見て、二人はあっと叫んだ。
言うまでもなく、そこに無残な姿の伊吹を薄っすらと見たからである。
「伊吹……」
「疾風、こっちにも人がいる」
疾風は懐から火打石を取り出し足元に落ちていた折れ枝に明かりを灯すと、まずは紫野の顔を見た。
涙に濡れた頬が、きらきらと光っている。
まっすぐな黒髪がその輝く顔をより白く引き立て、疾風は釣り込まれるように見惚れた。
思わず抱き締めて、その涙を止めてあげたい、そう思った。
「疾風!」
だが聖羅の声がそれをとどめる。
聖羅は興奮して、声高に叫び続けていた。
「疾風、こっちだ、こっち! 女と野武士がいる! ――死んでるぞ!」
疾風は駆け寄ってそれを見、「紫野、おまえが?」と確かめるように紫野に聞いた。
それから疾風は、聖羅に紫野を寺へ送っていくように言い、自分は急いで井蔵たちを捜しに行った。
皆、伊吹の死を聞いて心を痛めながら足早に向かい、野武士の顔の半分ない死体を見たのだった。
「こりゃあ……」
井蔵は感心した。
何という迷いのない斬り口だろう。
だが同時に、空恐ろしい。
これを八歳の紫野がやったというのか。
「すごい。ただの一太刀だ……大人でも、こうはいかないぞ」
藤吉も同様に感じたらしく、頭を振りながらそううめいた。
早暁。
ついに降り出した雨の中、皆は、伊吹と女の遺体を丁寧に筵に包むと荷車に乗せ、それぞれの家へ運んでいった。