第十四話 村祭り(十一)
男がこちらを見た。
しのは大きく目を見開き硬直する。
男が村人たちを押しのけこちらへ向かってくる間、しのは指一本動かせず、ただじっとその場に立ち尽くしていた。
大きな男の影がしのを覆い、しのは顎を上げて見上げた。
黒い法衣に奇妙な杖。
男の目はぎらぎらと光っている。
「うぬ……」
ついに男の腕が伸び、しのは小さな身を震わせた。
その時、疾風がすっと二人の間に身を滑り込ませ、しのをかばうように立った。両手を広げ通せんぼをする。
男の手が止まり、二人は目を合わせた。
丞蝉は、臆することなく自分を睨み据えてくる幼い子供の目に一瞬ひるむのを感じたが、すぐに己を取り戻すと威嚇するかのように「小僧……」と声を絞る。
「そこをどけ」
「どくもんか!」
疾風の後ろに井蔵が立った。
「この子たちが何か?」
井蔵は腰に差した剣の柄に手を置きながら、丞蝉に問う。
それを目の端で捉えると、丞蝉は仕方なく、「いや……」と答えその場を離れた。
離れながら、背中には汗が流れ、屈辱に顔が火照るのを丞蝉は感じていたのだった。
「大丈夫か、疾風」
井蔵が声を掛ける。
「うん」と疾風は頷き、すぐにしのを振り返った。
「しの、怖かったか?」
しのは幸い首を横に振る。疾風はほっとして笑顔を見せた。
そして今度は井蔵を振り仰ぐ。
「父ちゃん、今の男……」
うむ、と井蔵は頷き、疾風に言った。
「怪しい気配の男だったな。雲水姿だからと言って、僧侶とは限らん。実際、乱波は皆大抵、行者か僧侶に化けているもんだ。あの男も、もしや」
乱波というのは忍びのことである。
「乱波が子供をさらっては、乱波か刺客に仕立てようとするのは珍しいことじゃねぇ。……ところで疾風、その子は誰だ?」
「この子は、しの! 昨日からミョウジのところにいるんだ。父ちゃん、しのにも俺と一緒に剣を教えてくれ。こう見えてもしのは男なんだぜ」
そうか、と井蔵は笑い、しのの頭を撫でた。
「俺もさっきの男と変わらんかも知れんなぁ。子供に乱波の術を教えるとは」
すると疾風が井蔵の腰に抱きついて叫ぶ。
「俺は父ちゃんの子供だから、父ちゃんはいい乱波だからいいんだい!」
そうして何があったかまるでわかっていないしのを見て、照れたように笑った。
「しの、俺と一緒に剣を習うか?」
「はやてといっしょ……?」
「そうだ、俺が教えてやる」
「ん! やる!」
そう言って、しのは疾風を真似たか、疾風に抱きついた。