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第百三十七話 白い影(一)

 空はまだ赤い。

 藤吉は、倒れている男の顔をのぞき込んだ。

 派手な着物に、茶筅髷。胸に、首からかけた何か仏を刻んだ紋章のようなものが乗っている。

「こいつだ――あの時の男」

 そして同時に、思う。

 (――もしかすると、一刀(かずと)の本当のおっ父かも知れない)

 井蔵がそんな藤吉の思いを読んだかのように、そっと肩に手を置いた。

 (――おめぇは立派な、一刀の親父だよ)

 心の中で、そう言いながら。


「親父さん」

 いつの間にか聖羅がすぐ真横に立って、井蔵を見上げていた。

 瞳がきらきらと輝き、薄い唇がきゅっと一文字に結ばれている。

「おう、よくやった。えらいぞ」

 そう言うと、くるくるっと聖羅の頭を撫で目を細めた。


 一方疾風は、近くの木陰で座り込んだまま震えているつゆのの側へ行くと手を差し出し、「もう大丈夫だ」と言った。

 わっと、つゆのが疾風に抱きつき、疾風はふといおりのことを思い出す。

 いおりに抱き締められたあの柔らかい感触、鼻の奥をくすぐる匂い……。


 井蔵が疾風に声を掛けた。

「疾風、父ちゃんはまだ生き残りの野武士がいねぇかどうか、村を回ってくる。つゆのを藤吉の家へ送ってゆけ――おっと、皆もだ」

 ちょうどその時、向こうから源平太たちがやって来たのだった。

「母ちゃん!」

 つゆのは走って行くとおさいに飛びつき、声を上げて泣き出した。

「俺も一緒に行くよ」

 その様子を見つつ、疾風が井蔵に言う。井蔵は藤吉に、

「藤吉、おめぇの家の方にはやつら、いなかったのか」

 藤吉は頷いた。

「いない。それにあのあたりは翔太に任せてある」

 井蔵は再び疾風を見、

「じゃ一緒に行くか。――今度こそ、一人も逃しちゃなんねぇ」

 そう自分に言い聞かせるように言った。


 その頃紫野も、知らせに来た伊吹とともに山道を駆け下り村へ向かっていた。

 疾風は伊吹に「用心するように伝えてくれ」と言ったのだが、伊吹は紫野に、

「疾風が村へ来いって」

 と伝えたのである。


 もうすぐ山道が終わるという時、茂みで誰かが争っているような音と、女の泣き声を耳にした彼らは、いぶかしく思いながらそちらへ足を向けた。

 そして二人が出くわした光景は――男が女に馬乗りになり、さかんに腰を揺すっている場面であった。

 暗がりで、女の顔はわからない。

「何だ、ガキか」

 男は腰を振るのをやめなかった。二人を無視し、その行為に没頭し続けた。

 まだ幼い二人には、その行為の意味するところがはっきりとはわかりかねる。

 だが下になった女は泣いているのだ。暴力に違いない。

「野武士だ!」

 伊吹が小声で言い、だがさすがに井蔵の弟子、持っていた槍を構えた。

「ガキはすっ込んでろ」

 再び男が唸るように言ったが、女をぐいと抱き寄せた時、その白い脚が高く上がって着物がめくれた。

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