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第百三十一話 美濃の名匠

 世はますます戦乱をきわめ、侍たちの無謀な乱獲りやはぐれ者の野武士に、村が危険にさらされる機会が多くなってきていた。

 草路村では井蔵を中心に警固衆の結束を固め、武器の腕前を磨くことはもちろん、村の入り口に高い物見台を築いたり、家の中に隠れ穴を掘ったりすることをすすめてきた。

「夜に襲ってくるやつらの火付けが、もっとも面倒じゃ」

 結局危ない侍どもを村へ入れぬことだ。

 だが悪党はどんな手段をもってしても、攻める時には攻めてくる。自分たちの欲のままなのだ。


 ある日井蔵は、疾風と、紫野、聖羅をともなって、美濃のある人物を訪ねた。

 高い杉の林立する山道を進み、ひっそりとした山小屋の戸を開けると、中で刀の刃を研いでいた老人に井蔵は懐かしそうに声を掛けた。

「やあ、(かね)じい。達者だったか」

 

 兼じいと呼ばれたその翁は、目を刃から離すことなく、だが親しみのこもった深い声で、

「やっと連れてきおったか。待ちかねたぞ」

 と言う。

 しばらくそのまま、しゃっ、しゃっ、という音をさせていたが、やがて顔を上げて、疾風、紫野、聖羅三人の顔を見回した。

 ひょろ長い鼻が、特徴的である。

「おぬしらが、井蔵の秘蔵っ子か。まだ、こまいのう」

 何のことかわからない三人は、同時に生唾を呑み込んだ。

 子供ながら、この老人が只者でないことは、わかる。

 その身から、その眼差しから出る魂魄のようなものが、幾筋も鋭く放たれているのがわかるのだ。

 まさに剣気である。

「おまえが疾風か」

 老人は疾風を指差した。

「井蔵の息子――なるほど、いい目をしておる。腕っぷしも強そうじゃ」

 次に紫野を指差し、

「おまえは紫野じゃな。身の軽さ、剣の速さは、一流の忍びとしての素質十分らしいのう」

 最後に聖羅を指差すと、聖羅はびくりと緊張した。

「聖羅か。どうやらおまえは、剣より飛び道具の才があると聞いておるぞ。――剣は好きか?」

 ちらりと見た老人の小さな目が光ったように思え、聖羅はさらに固まる。

 だがかろうじてうなずいて意思表示をすると、やっと老人はわははは、と笑った。

「どうじゃ、兼じい。こいつらに見合った剣を作ってくれるか」

 兼じいはポンと膝を叩くと、

「もう用意してあるわい」

 そして立ちあがると、後ろの傾きかけた棚から布に包んだ剣を三振りとりだすと、四人の目の前に置いた。

 一振りずつ布をとり、そのたびに四人は息を呑んだ。

 どれも小ぶりである。

 三人に合わせてあると思われた。

 だがその刃は恐ろしいほど澄みきった蒼い光を放ち、とても子供が持つような代物ではない。

「幼い頃から本物を持つべきだ」

 兼じいは彼らの不安を読んだように、言った。

「おまえたちが大人になったら、また作り変えてやる。それまで、この刀を己の分身として操ってみせい」


 帰り道、新しい剣を腰に帯びた疾風は井蔵に言った。

「父ちゃん、何だかすごい爺さんだったな。まるで山の天狗みたいだ」

 すると井蔵は笑って、

「ああ。だがあれでもなぁ、兼じいには立派な名前があるんだぞ。藤原兼定っていう、な。兼じいの作る刀は名刀との誉れ高い。あれはきっと後世にまで名を残しおるぞ」

 木立の間で、(ひわ)が声高く鳴いた。

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