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第十三話 村祭り(十)

 疾風が繋いでいた手を振り払って父井蔵のもとへ行ってしまったので、茜は気まずそうに空いた手をぶらぶらさせた。


 ふと横を見ると、幼子が茜を見上げている。

 茜は先ほど疾風に教えてもらった幼子の名前を思い出した。

 少し戸惑い気味に声を掛ける。


「ええと…あんた、しの?」


 しのは茜から目を離さないで、こっくり頷いた。

 茜はやっとにっこり笑う。

「あたしは茜っていうの。ほら、あの二人の姉よ。よろしくね」


 その時、和尚の読経が終わり鐘が鳴ると、次に太鼓がどん! と響いた。そして笛の音が調子よく楽を奏で始めると、芸人の一座の子供が舞い出した。


 田舎芸人にしては随分と立派な衣装で、焚き火に照らされて白い装束が輝いて見える。

 その舞の優雅さと、舞っている子供の美しさに茜はぼおっとなった。


 白粉と紅をつけてはいるが、子供は男の子だ。黒い垂れ髪が愛らしい。


 茜は自分のあかぎれた頬やがさがさの手が急に恥ずかしくなり、ひとり赤くなって下を向いた。



 しのは鈴を鳴らしながら舞う踊り子を興味深げに見ていたが、向こうの林の陰から焚き火の方へ向かって大股で歩いてくる男にふと視線を奪われた。


 男は他の村人たちとは比べ物にならないほどの大男で、和尚と同じような黒い法衣を着ていたのが紫野の目を引いたのだ。


 しのがなおも見ていると、その男は村人たちの中に加わり、舞手をぐっと凝視した。

 遠くからでもはっきりとわかる濃い顔立ちは、明らかに獲物を狙う獣のような表情を示している。

 周囲にいた村人たちが何となくざわめき出し、男から身を離し始めた。


 そんなことには構わず、舞い手は笑顔を湛えて踊り続ける。太鼓はより大きく鳴り、笛は一層高く響いた。


『この大人も、何か違う。ミョウジやさくぞうと違う』


 しのの心はまたも何かを捉え、それが何だろうかと考えることに熱中するままに、しのの目は男に釘付けにされた。

 大きな瞳は好奇心で一杯に見開く……。



 丞蝉はふと視線を感じて我に返った。

 白菊丸を思い出して踊り子につい見入ってしまっていたが、今や自分が油断をしていたことに気付き、すぐさま鋭い視線をめぐらせその気配を探す。

 

 そして瞬時にそれを捉えた。


 幼子だった。


 おかっぱの髪の幼子が、向こう側から舞を見ている村人たちの最前列で自分を見ているのだ。

 丞蝉はぐっと見返した。

 幼子の目が大きく見開く。

 丞蝉は目を細めると、前にいた村人たちを押しのけるように幼子の方へ向かって歩み出した。

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