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第百二十四話 夏の日の出来事(二)

「紫野、おまえも来いよ」

 聖羅が誘う。

「うん」

 紫野が飛び込もうとかまえた時、次郎吉が声をあげた。

「紫野、こっちへ来い」

 えっ、というような顔をして紫野が見た時、次郎吉は両手にカニを持って睨むようにして立っていた。

「紫野、カニで遊ぼう」

 長吉は疾風とちらっと目を合わせると、「おい、次郎吉。俺が遊んでやろう」と言い、次郎吉の方へ行こうとした。

 が、次郎吉はだだをこねるように、

「兄ちゃんじゃない、俺は紫野と遊ぶんだ」

 と言う。

 疾風は紫野を見た。

 紫野は困っていた。

 本当は嫌だったが、でもそれを疾風に知られたくなかった。

「いいよ」

 と言うと、くるりと向きを変え、次郎吉の方へ走る。そして次郎吉からカニを受け取ると、ともにしゃがみ込んで鋏を合わせた。

 疾風はなぜか、できるだけ関心のない振りをし、そのせいで二人の姿が淵から消えたことにも気づかなかったのである。 


 太陽が少し翳ったかのようだった。

 かすかに空が鳴り、雨が降るのかと、疾風が見上げた瞬間――。

 大きな悲鳴が聞こえた。

 皆が驚いて声のした方へ顔を向けた時、藪をかき分けて素っ裸の次郎吉が飛び出してきた。

 顔が驚くほど紅潮している。

 次郎吉は手早く着物を引っ掛けながら、小道を上って駆けていってしまった。

「おい、次郎吉、どうしたんじゃ!」

 長吉の声も、すでに届かない。

 咄嗟に疾風は、「紫野?!」と思った。

 ――まさか、さっきの悲鳴は。

「紫野っ、どこだっ?!」

 そして、たった今次郎吉が飛び出してきた木の茂みへと入っていく。

 するとそこに、膝を抱え、ただ泣きじゃくるばかりの紫野がいた。

 どうしたことか紫野も丸裸である。

「紫野、どうした。大丈夫か?」

 疾風のその声にも紫野は答えず、ひたすら嗚咽をあげつづけた。

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