第十二話 村祭り(九)
「どこにいる……どこにいるのだ」
林の陰から同じく焚き火を見つめながら、僧丞蝉はつぶやいた。
嵐の夜に生まれた子供。
陰陽併せ持つ子供……。
夢に出てきた妖魔が指差し、教えたのはこの方角の村だった。
笹無、草路、竜神村。いや、もっと南もあり得る。
そして心に直に伝わってきた、幼子の陰影。
年に何度か必ず嵐は訪れるが、特に稲光が凄く、笹無村に轟音轟かせ落雷したのは、忘れもしない、三年前だった。妖魔が見せた幼子の形容も、それくらいの年頃だ。
「あの日、俺の宝となる子供が生まれたのだ。あの嵐の夜に」
再びつぶやくと、丞蝉は焚き火の周りに集まっている人々の群れを見た。
そこには幼子も多く混ざっている。
丞蝉は、出来るならその場にいる子らをすべてひっさらってやりたいと思った。
特別な子供。俺にはその子供がわかるはずだ。
その子に触れれば、俺の中にいる妖魔がそうだと教えてくれるに違いない。
丞蝉はふと林の道を振り返る。
先ほどの子供……。何かを感じたのだが。
だが、あの婆が叫んだとたん、その"何か"は消え去ってしまった。そして『この子供ではない』という声が、腹の底から上がってきたのだ。
「よし。今ここにいる子供すべてに触れてやろうではないか」
自らにそう言うと、丞蝉はぐっと錫杖を握り直し、一歩踏み出そうとした。
と、その時、村の男たちが集団になって焚き火の方へ近付いて来るのが見えた。
まだ読経は続いていたが、皆一斉に顔を上げて男たちの方を見た。
男たちは皆武器を持っていて、長髪を後ろで束ねた先頭の男は、中背ではあるが、肩幅の広さといい、その腕の筋肉といい、特に屈強そうだった。皆を率いている者であるということは、一目で明らかである。
連中はおそらく、村の警護をしている男たちだろう。草路村には剣の遣える男たちが多くいると言う。
一人の男の子が嬉しそうにその長髪の男のもとへ駆け寄ると、男も笑顔を見せながらその子の頭を撫でた。
丞蝉は思い止まることにした。
今は騒ぎを起こすつもりはない。自分は一介の僧で、錫杖を振り回すことは出来てもよもや剣や槍に敵うとは思わぬ。
そう考えるうちに読経が終わり、また笛の音が響き出した。
すると綺麗な装束に身を包んだ十二、三歳の美麗な子供が舞を舞い始め、村人たちはやんやの喝采を送る。芸人一座の子供であった。
その姿は、丞蝉に寵愛の稚児、白菊丸を思い出させた。丞蝉の性欲が疼き、男は口の端を歪めて笑う。
「まあよい。いずれ子供は手に入れてやる。今は子供ばかり追っていても面白くない。せっかくの祭りだ、楽しませてもらおう」
そうして村人たちの方へ近付いて行った。