第百十六話 河童の子分(三)
次郎吉は、この村で紫野よりも可愛いと思う女の子を知らない。
ある時ふと、「紫野に女の着物を着せたらどうだろう」と思いつき、茜の着物をこっそりと持ち出した。
しぶる紫野にそれを着させ、思ったとおり、まるで女の子にしか見えない様子に気持ちが昂ぶるのを抑えられなかった。
――紫野は俺のものだ。
不思議と体の下の方がうずうずし、心臓がどきどきした。
それからも何度か紫野に茜の着物を着せてはひとり興奮していたが、だんだんとそれだけでは物足りなくなり、ついに「俺がていしゅで、おまえは俺のにょうぼうだ」と言い出したのである。
紫野はもともと、あまり歯向かう方ではない。
やや強めに殴り、髪をつかんで「逃がさないぞ」と脅すと、おびえた目をして抵抗をやめた。
「次郎吉さん、肩を揉みましょうか?」
紫野はすばやく立つと、次郎吉の後ろに回った。
肩に手を添えて、ていねいに揉み始める。
だが心ははやっていた。
――早くみんなのところに戻ろう。
夕餉の真似をして、次に次郎吉の肩を揉み、いつもはそれで終わる。
ところが今日はそうはいかなかった。
「紫野、寝るぞ」
そう言うと、次郎吉は藁の山を少し崩し、そこを指差すと、「寝ろ」と言う。
もう体が戸口の方を向きかけていた紫野が唖然としていると、次郎吉が癇を立てたようにきいきいと怒鳴った。
「ふうふはこうやって一緒に寝るんだ! 言うことを聞かないと殴るぞ!」
次郎吉は、父と母の、一体何を見たのであろうか。
紫野はおおいに不安になりつつも、癇癪を起こした次郎吉に殴られたくなくて急いでそこに横になった。
すると次郎吉も、さっきまで下に敷いていたむしろを取り上げ、それを掛け布団代わりに被るようにして紫野の横に寝転がった。
ばさり、とむしろが顔に被さり、紫野は思わず両目を閉じ身をすくめる。
「……」
しばらく無言の時が流れた。
二人はそのまま、藁の敷き布団とむしろの掛け布団の間でじっとしていた。
だが次郎吉の手がごそごそと動き、ゆっくりと紫野の腰に回ってきた時には、紫野は奇妙な違和感を感ぜざるを得なかった。