表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/360

第百十四話 河童の子分(一)

「紫野は俺の子分じゃ」

 最近の次郎吉は、そう言ってやたらと紫野を独占したがる。

 たいていは紫野を自分の後ろに従え、その手を握って離さない。

 次郎吉は八歳。

 体はそんなに大きくなかったが、気は体の倍以上に強かった。

 両眉が濃く、吊り上っている。その下に小さな目がすすどく光っていた。

 鼻の先は奇妙に上向きで、口が顔の真中に向かって尖っている――「河童」というのが彼のあだ名であった。

「おい、河童。子分の方が強いじゃないか。だらしないぞ」 

 だが、紫野と木刀試合をするたび伊吹たちにからかわれ、次郎吉はぐっとこぶしを握り締める。

 「やめろ、伊吹」

 それを止めるのは、必ず疾風の役目だ。

「おまえは紫野に勝てるのか?」

 すると、皆何も言えずにすごすごと引き下がる。

 実際、身の軽い紫野にまともに剣で勝てるのは、疾風や年長の藤吉、翔太くらいだった。

 疾風は、からかわれた次郎吉が後で紫野に八つ当たりするのを避けるため、あえて次郎吉に味方してやるのだ。


 伊吹たちが去った後、次郎吉はきっと紫野をにらみ、

「そうだ、紫野。おまえが強すぎるからいけないんじゃ」

 と、変な理屈を言った。

「紫野、こい」

 そして今日もまた、剣の稽古が終わると、次郎吉は紫野の手を取って駆けていった。

「おい、次郎吉」

 次郎吉の兄、長吉が声をかけても戻らない。

「あいつ、何をしてるんだろう?」

 ついに眉を寄せた。

 と、疾風が、

「何をしてる、とはどういうことだ?」

 長吉の腕をつかみ問う。

 長吉がはっとしたように答えた。

「あいつ……姉ちゃんの着物をこっそり持ち出してやがるんだ」

「茜の着物を?」

 茜は去年の秋から、町へ下働きに出ている。今、村にはいない。

 長吉は親指の付け根あたりで鼻をこすりながら、言った。

「ああ。紫野と二人で、何か企んでるんじゃないか?」

「……」

 もうとっくに二人の姿は疾風の視界から消えている。

 疾風はしばらく迷ったが、結局後を追って駆け出していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ