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第百九話 水車小屋にて(一)

 井蔵、藤吉、市べぇの三人が隣村を過ぎた頃だった。

 見慣れぬ女の童子が駆け寄り、「井蔵さん?」と声を掛けた。

 井蔵が、そうだと答えると、女の子はその袖を引き、「こっち、こっち」と言う。

 三人が顔を見合わせながら女の子に引かれるままについていくと、そこは小さな水車小屋であった。


「つれてきたよ」

「ありがとう、おみつちゃん」

 水車のゴトゴトいう音に混じって、中から女の声がした。

 ――まさか、この声は。

 ひょいと出てきたのは、正真正銘、かえでである。

「おめぇ、かえで! なしてこんなところに――」

 市べぇは、すっかり面食らい声をあげた。

 それを制し、井蔵は、

「かえで、大丈夫か。男も一緒かね」

 と聞く。

 藤吉は後ろで固まっている。感情的になるまいと、懸命にこらえている様子であった。

 かえでは首を横に振り、藤吉にちらっと視線をやりながら、

「井蔵さん。あたしは帰らないわよ。あたしを説得したいんだったら、いおり姉ちゃんをここへ呼んで」

 と、毅然とした口調で言った。

「いおりを?」

 かえでが強く頷く。

「そうよ。いおり姉ちゃんを、ここへ呼んでほしいの」

 その表情からはかえでの真意はつかめない。だが、なんとなく不自然な態度が井蔵には感じられた。

「わかった。では呼んでこよう」


 くるりと背を向けた井蔵に、だがかえでは慌てて声を掛けた。

「井蔵さんはここにいて!」

 男たちは、一瞬歩をとめた。

「なんでだ?」

 市べぇがギョロリと目を剥く。

 ついに藤吉がかえでの側へ駆け寄り、その腕を乱暴に取った。

「い、痛い! なにすんのよ!」

「この、ばかやろう!」

 そしてかえでを突き放すと、小屋の中へ走り入る。

「どこだ、どこにいる! 野郎、出て来い!」

 だが小屋の中には誰もいない。

 薄暗い中に、薪や藁が積まれているばかりである。

「藤吉さんの、ばか!」

 振り返ると、かえでが顔を真っ赤にして怒っていた。

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