カリンの初恋
いくつの頃だったか、あれは確か幼稚園に入る前――
カリンの行動範囲は3歳児にしては広かった。母親の目を盗み、半径1キロ圏内の公園は三輪車で一人で行って遊んで帰ってくる、そんな子だった。
あの日も一人で三輪車を漕いで公園に向った。穴場なのかあまり子供の来ない公園で、ブランコも滑り台も独り占めできるから気に入っていた。
砂場で砂をどこまで高く盛れるか遊んでいるうちに飽きて、今度はブランコへ駆けて行った。
キーコキーコと漕いでいるうちに、年上の子たちがやっているように高く漕いでみたくなった。そして年上の子たちは高く漕いでジャンプするのだ。
カリンは出来そうな気がして、高く漕いでからジャンプしてみた。
「危ない!」
誰かの声が聞こえたと思ったら、カリンは地面に激突するところをその誰かに助けられた。
「……お兄ちゃん誰?」
「ヒヤヒヤした……怪我はない?」
「うん! お兄ちゃんは?」
「僕は大丈夫だよ」
優しそうなとてもカッコ良いお兄ちゃんはそう言って笑った。
「お兄ちゃん、鼻血」
「ああ、ちょっとぶつけたかな……大丈夫だよ!」
それから鼻にティッシュを詰めたお兄ちゃんと砂場で遊んだり、ブランコを漕いだり、鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり楽しく遊んだ。
いつの間にか夕方になったのか、暗くなる前にお兄ちゃんは家まで送ってくれて「またね」と言って去って行った。
次の日も公園に行ったが、それ以来お兄ちゃんには会っていない。
*
「ふぅん……お兄ちゃんねぇ。何歳くらいの男の子だったの?」
「うーん……先生くらいの年、だったような。もうっちょっと上かなぁ」
なるほど、カリンが3歳ってことは13年前だから、今は25、6ってことか、とタツキは内心舌打ちをした。
それ以来会ってないなら良いのだが、面白くないのだ。ホッペを赤く染めてデレデレと話すカリンに苛立ちが募ってきた。
カリンの初めては全てタツキのモノにしなければ気が済まない。
「とは言え、昔の話だしな……優しいおにいちゃんだったの?」
「うん! 良い思い出でっす!」
思い出なら良いか、とムリヤリ納得して授業を再開した。
だが、帰りにはいつも以上に課題を出すことを忘れなかった。