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タツキのぼやき

僕の今日の昼食は社食だ。


「室長ぅ、お願いですぅ~」


生姜焼き定食を食べていると部下の根岸がやってきた。


「クネクネしがら寄ってくるな、良い男台無しだ。そして断る」


猫なで声でクネクネしながら寄ってくるときは、大抵ロクでもない頼みなんだよ。


「お願いしまっす! 明日、合コンなんです」


「金曜はダメだ」


「え!? デート? デート?」


カリンとデートしたら楽しいだろうな。

あの子は奥手みたいだからデートはしたことなさそうだしな。

思わず頬が緩む。


「え、マジ? どこの女子ですか? 人妻!? 女子大生!?」


「違う。ピチピチの女子高生、16歳だ」


「え、それって犯罪……にはならないですね? え、良いの? つか、紹介して下さい!」


「断る。明日の合コン頑張ってこい」


「あ、そうだ。おーねーがーいー!」


「水曜と金曜はその子の勉強を見てるんだよ。だからダメ」


「総務女子の新人ピチピチかわい子ちゃんが揃うんですよ?」


「社内の女は食指が動かない」


「お願いしますぅ! 総務の女子に「ぜひ室長も」って言われてるんですよ!?」


「そんなの僕の知ったことじゃない。それに今、間に合ってるしな……」


「何言ってんすか!? 12才で歩くR18の室長が!」


根岸が声を張り上げると食堂にいる社員達がチラ見している。


「おい! 大きい声で――」

「無節操な室長が女一人で満足――」

「分かった! 参加する」


あることないことデカい声でこれ以上言われたら堪ったもんじゃない。

思わず参加表明をしてしまったじゃないか。


「じゃ、お勉強終わってから参加ですね、ヨシ! 室長ゲットォォぉぉ!」





***


「あ~。面倒だな……」


「溜息吐いて、どうしましたの? 室長」


「あぁ……根岸が面倒だと思ってね」


パンツスーツ姿のスラリとした知的な眼鏡美女が顔を上げた。

主任の夏木ユイだ。


「明日、合コンに参加しろって……」


「あら、室長も参加ですの?」


「あ、ああ? もしかして夏木さんも参加?」


「私も、根岸君に誘われましたの」


同じ職場の女性が参加する合コンは何かイヤだ。

寧ろ飲み会で良いんじゃない?

僕はお茶とかジュースだけどね。


「ええ? 女子はあと誰?」


「人事総務の子、4人だそうです。根岸君の目当ての子がいるらしいですわ」


じゃあ、女子は夏木さんを入れて5人か。

それに男子5人で10人。

大所帯だな。


「楽しみですわね」


「ま、そうだね。参加するなら楽しまなくちゃね」


夏木ユイの眼鏡が妖しく光っている。

コワいコワい。




***


今日は気分が良いからこのまま家に帰りたい。


ああ、可愛いカリン。


白い背中に僕の名前。

僕のモノだ……


「着きましたよ。博士」


「ん、ああ。23時に迎えに来てくれ」


「はい」



*


指定された無国籍居酒屋で店員に案内されて個室へ向かった。


店員が個室の扉を開けると既に盛り上がっている。

女子5人に男子2人。

僕を入れても男子3人。


これだと女子が2人余――


「女子が2人余って……ない!?」


女子4人中3人が何故か夏木ユイに侍っている。

そして、その侍っている女子に根岸ともう一人の男が侍っている。


夏木ユイ頂点のヘンなヒエラルキーが出来上がっていた。


「あ、水原室長ー。お疲れ様ですぅ」


クリンクリンの茶髪の女子がビール瓶を持って寄ってきた。

ユイに侍っていない女子だな。


「……僕、12才」


「あ、すみません。チューハイですねぇ!?」


「いや、オレンジジュース」


どういう耳をしているんだ、この子。


「君はアッチに混ざらないの?」


「あたしぃ、水原室長待ってたんですぅ」


「ふぅん。君も総務課?」


「そうでぇーす。今年入社しましたぁ。荒井ヒトミでぇーす」


「……語尾を伸ばして喋るのやめなさい。社会人にもなってみっともない」


まあ、酔っ払いに言っても仕方ないけど。


「いやぁん。水原室長って上司っぽいー! ステキ」


バカにしてるのかこいつ?


パッチリした目は長い睫とアイラインでばっちり縁どられている。

ポテッとした唇はウルツヤグロスで肉感的。


うん。

どこにでもいる感じだな。


「水原室長のTシャツカワイィ~」


ヒトミが甘えた声で擦り寄ってくる。

すっかり出来上がってるな……


「このTシャツはやらんぞ」


「え~欲しいぃ~」


サイズが合わないTシャツ貰ってどうするんだ?



*


「で、根岸はどの女子狙い?」


何で、根岸と連れションなんか……。

とは、言えここまで来ると興味はある。


「ユミちゃんです!」


「夏木さんに群がってた?」


「そう、あの俺を見るときの虫ケラを見るような蔑む視線が堪らないッス~」


自分の体を抱きしめて快感に震えてぶつぶつ何か言ってる。


「あの、蔑む視線で俺を見る女を……ムリヤリ組み敷いた時の……あの嫌悪の表情が……目が、ヒック」


ああ、お前もヘンタイだったな。

ま、人の性癖はどうでも良いが。


「ぼんやりしてると夏木さんに持って帰られるぞ?」


「俺も一緒に行くから良いんスよ」


「あっそう。くれぐれも犯罪紛いの事はするなよ」


「ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ」


ダメだこりゃ。


「そういう室長ぅ。どうですー? 荒井さんはぁ?」


「さぁ、どうだろうね」


「ああぁぁ。そう言いながら。もう!」


「あー。ほら行くぞ」


くどいようだが、会社の女子は後々面倒だからナシだ。



*


僕に手を引かれて戻る根岸に、ユミちゃんが物凄い嫌悪の眼差しを向けている。

根岸も顔は悪くないんだが――寧ろ良いんだが、まぁコレだしな。


「じゃ、僕はそろそろ上がるから」


そう言いながら万札を二枚だけ、酔ってなさそうな夏木ユイに渡した。


「やぁぁぁん! 水原室長って太っ腹ぁ~ん」


途端に荒井ヒトミがスリ寄ってきた。

うん、分かり易い。


「じゃ、私達も出ましょうか」


ユミちゃんともう一人、女子が夏木さんの腕に絡まっている。

そのユミちゃんの腕に根岸が絡まっている。

そしてユミちゃんの蔑みの眼差しに震えている。


ふむ、夏木さんに持ち帰られるユミちゃんに持ち返られる訳か。

良かったな!根岸。



***


面倒だからシャワーは明日の朝だ。

今日は(もう昨日)疲れた。



カリンの写メで癒されよう。





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