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新しい友達


「そんなに警戒してどうしたの?」


分かっているのにわざと無邪気に問うタツキ。


「あ、あんな事されたら当然です!」


「あんな事って、どんな事? 僕何かしたっけ?」


「ひど……! こっちはお風呂に入ったり着替え……ゲフン!」


へぇ、お風呂に入ったり、着替えたりする度に胸元の赤い痕を見て思い出すんだ。

タツキの目がそう言っている。


「赤くなって可愛いなぁ。この前の事でも思い出した?」


「みぎゃーっ!」


タツキは、ニヤニヤ笑いながら16才の初々しい反応を堪能している。


この、天使の皮を被ったエロオヤジは、カリンを手篭めにせんと日々企んでいたところ、先日チャンスが舞い込んできた。

向こうから、スノコ巻きになって「さあ! どうぞ召し上がれ!」と川上から流れて来たもんだ。


今後の楽しみのため全てに手は付けず、最後をどう美味しく頂くかさまざまなシミュレーションを行っている、美少年の皮を被ったヘンタイだ。



***


こうなると意地でもギャフンと言わせねば立つ瀬もないし腹の虫も治まらない。

ノド元過ぎればナントヤラ、のカリンは作戦を練っている。

だが、下手をすると返り討ちに会う。


「何かないかなぁ?」


鼻の下にシャープペンシルを挟め眉をしかめて模索する。

可愛らしい顔が台無しだ。


余談だが、そんなカリンを見てトキメク男子が多い。

可愛いのに飾らなくて、たまにぼんやりと窓を眺める姿に癒されるようだ。


「あの、何を考えているか分からないところが良いよね」


「可愛いのに、気取ってないしな」


などと、ありがたーい目で見てくれる。

実際は形振りお構いなしに「あのガキ(タツキ)絶対ギャフンと言わす」事を考えている。


「あ~ホント何かないかなぁ……」


子供の苦手な物とか嫌いな物ってなんだろ?

ピーマン? は、あたしも嫌いだしな。

勉強? は、寧ろあたしが嫌いなんだよ。

ユーレイ? より、怖いもんなぁ、あの人。


大体、普通の人間扱いしたらダメなんだよ。

直接聞こうかなぁ。


『はい、先生! 先生の苦手なものってなんですか?』 


『僕に弱点なんかある訳ないだろ?』


ダメだ!


んーーーー! 

んーーー!

んーー……

んー……


ぐー

ぐー


「――だ。飯田! 飯田カリン!」


「……はっ」


大声で呼ばれてはっとする。

数学の先生がコワーイ顔をして立っている。


「黒板の問い5やってみろ!」


わぁ~い、怒ってるー。

皆、固唾を飲んで見守っている。

数学の多田は全生徒から恐れられている学年主任+生徒指導。

目を付けられると厄介だ。

誰も目を合わせない。


アリガトウ! 皆!


問い5、問い5。

……先週、タツキ先生に教えてもらったヤツだ。

はい、スラスラーっと。


「授業中に寝てる割に解けるもんだな」


解いたのが面白くないのか露骨にイヤミを言う教師。


「す、スミマセン先生! 昨日遅くまで数学の予習していたのでつい……」


カリンは半ベソ擬で返した。


「ん、そうか。でも、授業で寝たら本末転倒だぞ」


教師はちょっとご機嫌になった。


ふぃー良かったヨカッタ。

タツキ先生のお陰だ!

アリガトウ、先生!


「って、ちがーう!!」


お前の所為(逆恨み)で寝ちゃったんじゃないか!


「何が違うんだ?」


「あっ……そこの、公式の符号違うかな? みたいな……」


「お、そうか? そうだな……うむ、頑張ってるな、飯田」



めでたくカリンは数学教師の数少ないお気に入りの生徒の一人になった。




***


「あの、飯田さん。この問題の解き方教えてくれるかな?」


「あ! 俺も。俺も良い?」


「俺にも教えてくれ。3サイズも教えてくれ」


「男はひっこんでろ! あたしにも教えて、子猫ちゃん?」


「拙者にも御指導願う!」


休憩時間に入った途端、喋ったことのない同級生達に囲まれた。



それにしても……このクラスって侍がいたんだぁ。

あとでサイン貰わなきゃ。





***


「あんた、ソレ。そんなに嬉しいの?」


「うん、だって侍だよ? 今時いないんだよ?」


放課後、親友のミズキが「侍」と油性ペンで書かれたTシャツを大事そうに持っているカリンを見て呆れている。


「そして、ソレは何?」


「へ……? 同じクラスの夏木ユカちゃん」


カリンに「子猫」ちゃんと言った同級生だ。

ミズキも同じクラスだからモチロン知っている。

そして「子猫」ちゃん発言に違わぬ女子好きであることもよーっく知っている。


「方向同じだから一緒に帰るの。ね!ユカちゃん」


「ねー子猫ちゃん」


ムッとしながらミズキはカリンにチクッてみた。


「カリン、その人ねぇ。女子好きで有名なんだよ?」


「ええっ!? あ、あたしもミズキちゃん好きだから、女子好き!」


ユカがにやっと笑った。


カリンは奥手というか、マイペースというか。

まぁ、どっちにしろ他人の噂に振り回されるような子ではない。


「良い子だねぇ。あんたって子は」


ミズキがカリンの頭をぐりぐりする。


「お主も良い子じゃのう」


お返しにミズキの頭をぐりぐりする。

ユカが面白くなさそうに二人の遣り取りを見ている。


さすが、ミズキはユカとの年季が違う。




***



「ユカちゃんの家って結構近かったんだ!」


学校のある赤緑市から3駅の住宅街でカリンとユカは降りた。


「え、カリンの家ってこの辺なの?」


方向は一緒だって知っていた。駅で見掛けるから。


「うん10分位だよ」


「え? でも中学とか一緒じゃなかったよね?」


一緒だったらこんなに可愛い子猫ちゃん見逃す筈ない。


「高校に入る前。今年の3月に引っ越して来たばかりなの」


「そうだったんだぁ。ご近所だねぇ」


「この辺友達いないから嬉しいなぁ」


「そうね。あ、今度ウチにおいでよ。ね?」


「行っても良いの?」


……行っても良い?


行ってもイイ?


イってもイイ?


ねぇユカちゃん……イかせて……




「あれ、鼻血? ダイジョブ、ユカちゃん?」


鼻血を吹きながら身をくねらせている友達を白い目で見ることなくポケットティッシュを渡す。


「はい!」


笑顔でティッシュを一枚差し出してくれるカリンを見て


「……オカズ!」


と謎の言葉を残し走り去る友人ヘンタイを「面白い人と友達になったな」と満足そうに頷き見送る。



この日のカリンの収穫は大きかった。


嘘泣きを覚えた!

数学教師のお気に入りになった!

侍にサインを貰って握手までして貰った!(一番の収穫)

新しい友達ヘンタイができた!




先生ギャフンと言わせるネタないじゃんか!


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