まだまだ温泉
全身泡塗れの二十代後半の割とガッチリした男と、ボンキュボンなそこそこ可愛い二十代前半の女子。ノーマルな健全男子ならどちらに体を洗って貰いたいだろうか。
バスタオルの隙間から見える谷間を凝視しながらそんなことを考えるタツキ。見たい見たくないではなく目が行くのは男の本能だ。そういう場合タツキはチラ見なんてみみっちい真似はしない。無邪気な何も知らないような顔でシッカリじっくり見つつ、挟め甲斐がありそうだ、などと考えている。
「いや、そうじゃなくて」
タツキの計画では子供の振りをして女湯に殴り込みをかけてカリンと温泉に浸かることになっていた。姑息だが、可愛い顔で甘えん坊の振りをすればカリンはコロッと騙される……はずだったのに。
――カリンの生着替え動画に釣られるんじゃなかった。今頃二人でしっぽりヌッポリだったのに……。
苛々やフラストレーションやその他色々溜まり過ぎて爆発寸前だ。
「「しつちょぉん!」」
「……ふ、ふふふふ、ふふふふ」
「あ、ヤバい……室長がキレた」
完全に悪ふざけのノリだった根岸は、不気味に笑うタツキの姿にシャワー室から避難した。もちろんヒトミなど置いてけぼりだ。
「二人きりですぅ、しつちょぉー! どこからでも来て下さぁい」
「そうかそうか……望みどおりにしてやろう……」
すり寄るヒトミを、笑いながらキレたタツキはどこからか出してきた縄で縛り上げた。
「きゃぁぁぁぁん! 室長のエッチィ!」
完璧な男は縛り方も熟知している。亀の甲羅のように縛り上げられたヒトミは、はぁはぁしながらむしろ喜んでしまった。
「何喜んでるんだ、メスブタが!」
「あぁん、もっとイジメてぇ!」
「ふはははは! こうか!?」
ノリノリな二人だが、女湯の声が筒抜けと言うことは、逆もまた然り、である。
男湯から聞こえるタツキの高笑いとヒトミの叫び声に夏木さんとカリンが何事かと覗きに来たのだが……。
「まぁ、すごく楽しそうだわ。私も混ざらなくては」
「ああ”ん?」
入ってきた二人に振り返ったタツキの年季の入った鬼畜でドSな顔は、とてもじゃないが可愛くも無邪気でもない。
それだけならまだ良いのだが、どう見てもいかがわしい行為の真っ最中。タオル一枚だけで縛られて転がっている際どい姿のヒトミをグリグリ踏み付けて全裸で腕を組んでいるタツキの顔は、今までにないくらい輝いている。
「……せ、先生のドスケベぇーっ!」
「はっ! 違う、カリン! これは何でもないんだ!」
カリンの叫び声で我に返ったタツキは走り去るカリンの後ろ姿に手を伸ばした。
「待て、カリン!」
べちょ!
慌ててタオルを腰に巻いてカリンを追いかけようとしたタツキは、転がっているヒトミに足を取られてマヌケな音を立てて転んだ。
「室ちょぅ……もっとぉ……」
「ほほほほほ! 二人まとめて私が踏んであげるわ」
修羅場は益々訳の分からない場に変化していった。
それにしても、夏木さんは一体何しに来たのだろう。