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自爆作戦 1


「で?  これは一体何の真似?」


椅子に座っている少年は目の前で正座をしている少女の頭に乗せてぐりぐりしている。

少年は手に持った紙を眺めている。


「せ、先週の小テストの結果です?」


少女は冷や汗を垂らしながらなんとか返事をした。


「なるほど……」


少年は変声期前の綺麗な済んだ声は至って穏やかだ。

だが、その様子とは裏腹の少年の黒い威圧感に少女は更に身を縮ませている。


「ふうん、君の頭は僕の足を乗せる台くらいにしか役に立たない訳か」


少女の頭に乗せた足を遠慮なくぐりぐりしている。


少年の手の中の、少女のテスト結果は惨憺たる物だった。

全教科11点。


今日、少女がテスト結果を少年に見せたとき何故か少女がニヤっと微笑んだのを見逃さなかった。


わざとこういう点を取ってきたのだろう。


少年はその状況を逆手に取り少女を甚振って遊ぶことにした。



***


少年の名は水原タツキ。

2ヶ月前からこの少女の家庭教師をしている。


12歳にしてとある軍需企業で研究開発責任者という地位に就いている。

モンスター少年だ。

その企業の取引先の課長の娘さんが高校入学と同時に成績が下がった、という事で頼み込まれた。

タツキにも思うところがあったため、快く引き受けることにした。


授業は週に2回。水曜と金曜。


授業初日。

16歳になるこの少女、飯田カリンはあからさまに少年を睨みつけながら「12歳であたしより頭良いんだスゴーイ、天才ってヤツ?」と半分、バカにしたように賞賛した。


タツキにとって『天才』と言われるのが最も我慢ならない事だ。

まるで、何も努力せずに伸し上がったようじゃないか。

それを言う人間は自分の努力が足りない事を棚に上げてるだけじゃないのか?


彼にとって『天才』という言葉は彼の努力や苦労を認めない最大の侮辱発言である。


「僕は何事も手を抜かず全力でやってきた。その結果だ。天に与えられた物じゃない」


冷めた声でそうカリンに告げた。


「ごめんなさい」


意外な事に彼女は決まり悪そうに、素直に謝った。

こういう反応は初めて見た。


「いや、謝る必要はない」


カリンの素直な様子にタツキは声を和らげた。


カリンはよく言えば素直、悪く言えば単純で思った事をすぐ口に出してしまう。

この日もそうだった。



***


家庭教師が12歳だなんてあり得なくなくね?


何が悲しゅうて自分より4歳も下のガキんちょに勉強見てもらわなきゃなんないんだか。


お父さんもお父さんだよ。

こんな子供に米搗きバッタみたいにペコペコして、お母さんまで釣られてペコペコして。

そりゃあ、頭良いのは認めるけど……。

大人のプライド?ないのかね?

それに、この子何がムカつくって……。


可愛いんだよ!女子のあたしが嫉妬するくらい綺麗なの。ずるいって。

思わず見惚れた自分にムカつく!


初日に失言して悪かったと思うけど、何かっていうと説教し始める。

「ちゃんとした日本語で話せ」とか「服はちゃんと着ろ」とか「スカートが短い」とか「ごハン粒ほっぺに付いてる」とか「唇がカサついてるよ? リップ塗っとけば?」とか……


アレ?リップは良いのか。ご飯粒も……?

恥ずかちーーっ!!!


ええっと。そうそう。とにかく、生意気。全てが大人びていて子供らしくない!

全く子供らしくない!


ええっと。そうそう!

絶対ギャフンって言わせてやる……。

年上のプライドっつーのを見せてくれるわ!



***


タツキは、生まれてから殆どの時間を大人の中で過ごしてきたため、同世代の人間がどういった物か分からず12歳まで成長してきた。


そんな彼は、同年代の人間との人間関係育成が疎かであった事は些か危惧していた。


今回の家庭教師の話は彼にとって同世代と接する良い機会である。


そして、彼にとって初めて長時間接する16歳の少女は衝撃的だった。

普段接している大人とは全く違う未知の生き物。

自分の感情に素直であけっぴろげ。

純粋で自分の感情を隠そうとしない。

生まれて12年目にしてほぼ初めてお目に掛かる驚くべき生き物だ。


周りの大人は目を細めながら大人特有のありとあらゆるドロドロとした感情を隠しながら、いやらしい眼差しを向けてくる。

彼にとってはそれが当然であり、また彼もそういう他人を侮蔑の目で見ることが自然になっていた。


ところが、どうだろう?

この少女は素直な眼差しで自分を見詰めてきた。


「12歳であたしより、頭良いの? スゴーイ! 天才?」


『天才』という言葉にムッとしてしまったが、それも素直な感想なのだろう。


そして、何とか一泡吹かせようと隠しもせずに必死に立ち向かっている。

社会的に陥れようという汚い大人の企みではなく、純粋に彼を驚かせようという子供のイタズラ。

可愛いもんだ。


彼女の行動が全て新鮮で微笑ましい。

猫が飼い主に爪を立てているようで可愛らしい。


彼女の少女らしい顔や声、立場も弁えず立ち向かってくる態度に心拍数が上がる。

妙に気分が高揚する。


彼女に恋をするまで時間はいらなかった。



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