"告白"
台所は明かり一つ無かったが、日中の為か『何も視えない』という程でも無い
君の姿は無かったが、状況からすれば君が最後に居たのは、この部屋だったようにも視える
『先にこれ食べて待ってて』と書かれたメモの先には、弱火に掛けられた寸胴鍋が在る
弱火の為か
誰も視て居なかったにも関わらず、吹きこぼれて居る様子は無い
中身は何かしらの煮込みであるらしく、トマト、玉ねぎ、あとはワインだろうか
柔らかくなるまで煮込まれた肉が、熱で撹拌されて浮き沈みを繰り返して居る
良い匂いに感じたが、鍋の上に設置された雨樋のようなレールが気掛かりに感じて、僕はそれの伸びている先を眺めた
レールは部屋の外まで伸びて居て、何処から始まって居るのか見当も付かない
『それは』『後で視れば良いだろう』と思い直すと、僕は流しに在ったレードルで鍋の中身を掬い、熱を冷ましてから口に運んだ
───なるほど、美味い
どちらかと言えば君の専門分野は、鍋に対して伸びて居るこうしたレールの方だと思って居た
昔から君は工作が好きで、僕の思いも寄らないような物を次々に作っては、僕を驚かせて居た
『近頃は元気が無いようだ』と心配に感じて家を訪ねてみたが、今日は来て良かった
『美味しかったよ』と伝えたら、君はまた僕と遊んでくれるようになるだろうか
事実として、美味しかったので、僕は火傷に気を付けながら、よく煮込まれた肉を幾つも食べた
そして、『ふぅ』と、満足の溜息をつく頃になっても君が現れない為、改めて寸胴鍋に対して伸びたレールを視た
その時、幾ばくかの量の水に流されながら、レールの上を『何か』が流れてくるのを僕は視た
流れてきたのは、煮込まれ加熱されて白色に染まった肉片で、それらはぼとぼとと鍋の中へ消えていく
「具材が、自動で足されていく仕組みなのか」と僕は感心すると、レールを辿って台所を後にした
何故なら追い掛けて行った先には、得意げな顔をした君が待っている気がしたから
レールは台所を出たあと居間を抜けて、家の廊下へと続いて居る
何部屋か視送りながら、夢中で先を目指す
レールは途中で少し曲がりくねると、階段を二階に向けて突き進んで居た
君の家には何回も来た事があるし、泊まった事も有る
珍しい作りをしてて、確か二階には浴室が───
「───浴室を調理場にしたのか?」
大胆ではあるが、一応合理的にも感じられる
早足で追い掛けると、実際にレールは浴室から伸びて居る事が観測出来た
推理が当たった興奮のままに、僕は君の居る浴室に、半ば走るように飛び込んでいく
「美味しかったよ!!!」
君に抱きつこうと、僕は両手を広げながら浴室に飛び込む
内部の景色は予想とは違う状態だった
タイルのあちこちに赤黒い染みが出来て居て、浴槽にはどす黒い、耐えられないような臭いのするものが満ちて居る
浴槽の縁には、両眼を視開いた君の首が載せられて居て
その後ろの壁には赤い、指で書いたような文字で「食べてくれてありがとう、好きだったよ」と書かれて居る
様々な可能性を考えながら、僕はうずくまって両手で自分の口を押さえた




