そのまま欲しい
部屋は、前と同じだった。
変わらない配置。
変わらない匂い。
なのに、胸の奥だけが、少しだけざわついている。
「ラウル、先にシャワーする?」
いつもの問いかけ。
日常の延長。
ラウルは短く頷いて、何も言わずにシャワー室へ向かった。
扉が閉まる音を聞きながら、私はベッドに腰掛ける。
(明日、出掛けたら……)
自然に、考えてしまう。
ラウルの寝巻き。
この寮にも、一式揃えないといけないな、って。
今は、私の部屋に来るたびに、
どこか間に合わせみたいになっているから。
それが、少しだけ嫌だった。
シャワーの音が止んで、
しばらくして扉が開く。
髪が、少しだけ濡れたままのラウルが戻ってくる。
首筋に、まだ湯気の名残。
目が合って、何も言わずに、
今度は私が立ち上がる。
「じゃあ、次は私ね」
シャワー室へ向かいながら、
背中に視線を感じる。
――でも、振り返らない。
湯を浴びて、髪を洗って、
いつもより少し丁寧に、身体を拭いた。
戻ると。
案の定だった。
ラウルは、私の枕に顔を埋めていた。
抱きしめるみたいに、ぎゅっと。
こちらに気づくと、
ちら、と視線だけを寄越して――
無言で、腕を広げる。
「はいはい」
小さく笑って、
私はその中に滑り込む。
仰向けになった私の上に、
ラウルの腕が回って、
肩に、重み。
頭を預けられる。
すぅ……っと、
深い呼吸の音。
一回。
二回。
胸元で、ゆっくり上下するのが、くすぐったい。
「……息、近い」
そう言うと、
少しだけ、腕に力が入った。
「約束」
低い声。
「ん?」
「……さっきの」
ああ、と、思い出す。
「私の外套でいい?」
軽い気持ちで言ったはずなのに。
「シャツがいい」
即答。
「じゃあ、私もシャツかなー」
同じものを、交換する。
そういう意味だと思った。
「……洗ったやつでいいかな」
一応。
確認。
一瞬、間が空いた。
それから。
「そのまま欲しい」
囁くみたいな声。
でも、はっきり。
胸の上で、
ラウルの呼吸が、わずかに乱れる。
(……あ)
私は瞬きをして、
天井を見る。
「……それ、普通に聞くと変態だよ?」
冗談めかして言ったつもりだった。
でも、
ラウルは笑わない。
代わりに、
頬に、触れられた。
ゆっくり。
なぞるように。
「セナの、時間が染みてる」
その言葉が、
なぜか、ぞくっとする。
否定も、肯定も、
できないまま。
私は、そっとラウルの背中に手を回した。
ぎゅ、と抱き返す。
すると、
ようやく、ラウルの身体から力が抜ける。
「……捨てないで」
聞こえるか聞こえないかの声。
「捨てないよ」
即答だった。
考える前に、出た言葉。
ラウルの喉が、
小さく鳴る。
額に、
軽い温度が落ちてくる。
それだけ。
それ以上は、何もない。
でも。
この夜は、
いつもより、距離が近かった。
そして、
ラウルは――
そのままを、欲しがっていた。




