週末前の夕方
変成科の訓練は、今日も地味だった。
派手な爆発も、歓声もない。
素材を削り、整え、失敗して、やり直す。
野外訓練を経た今では、その地味さが「安心」に変わっている。
「つかれたー」
「でも前より全然楽じゃない?」
「わかる。身体が覚えてる感じ」
A班はいつもの調子で、わちゃわちゃしながら寮へ向かっていた。
週末の話題が、自然と混じる。
「明日さ、あれ買いに行こう」
「東通りの店だよね」
「甘いやつ」
そんな会話の途中で、ふと空気が変わった。
寮の前。
人影がひとつ、壁際に立っている。
それに気づいた瞬間、セナの表情がぱっと明るくなった。
「ラウル」
駆け寄るほどではない。
でも、足取りが軽くなるのがはっきりわかる。
「待たせちゃった?」
「大丈夫」
短いやり取り。
それだけで、二人の距離が近いことが伝わってくる。
その横で、レックが一瞬だけ動きを止めた。
「セナ?」
呼びかける声は、いつも通りのはずだった。
けれど、視線はラウルに向いている。
「明日、一緒に出掛けるんだよな?」
確認。
念押しのような響き。
「え? うん」
セナは首を傾げて答えた。
「シアンもファルケも、だよね?」
名前を出されて、少し間が空く。
「……そうだな」
そう返したレックの声は、わずかに低かった。
「前に食べたお菓子、また買わなきゃね」
「場所、覚えてる?」
空気を和らげるように、シアンが笑う。
ファルケは肩をすくめて、それに頷いた。
そのやり取りを一歩引いた場所から見ていたラウルが、静かに手を差し出す。
迷いのない動き。
セナは、当たり前のようにその手に自分の手を重ねた。
その瞬間。
横で見ていたレックが、セナの方を向く。
驚きが、隠せていない。
目を見開いたまま、言葉を失っている。
ラウルは一度だけレックに視線を向け、
それからセナに、穏やかに笑いかけた。
「行こうか」
「うん」
セナは振り返って、A班に手を振る。
「みんな、また明日ねー」
軽い声。
何も疑っていない声。
そのまま、手を引かれて寮の中へ消えていく。
残されたA班の前で、沈黙が落ちた。
「……近いな」
低く呟いたファルケの言葉に、
誰もすぐには返事をしなかった。
レックは、まだその場に立ち尽くしている。
さっきまで、確かに隣にいたはずの距離が、
音もなく、遠くなった気がして。
胸の奥に、名前のつかない違和感だけが残った。




