幼馴染の存在
俺の彼女には、幼馴染がいる。
――いや。
正確に言えば、「俺の彼女」かどうかは、まだ誰にも確定していない。
わかってる。
わかってる、はずだ。
学園の食堂で並んで飯を食って。
授業で隣に座って。
野外訓練では、同じ班で、同じ火を囲んで。
笑う距離も、触れる距離も、
全部、当たり前みたいに近い。
だから、俺は勝手に思ってた。
(……そういう仲、だよな?)
でも。
「幼馴染と一緒に家に帰る」
その一言が、胸の奥に引っかかったまま、取れない。
同じ村。
帰る家が一緒。
言葉にすれば、それだけの情報だ。
特別でもなんでもない。
……はずなのに。
(家が、一緒?)
頭の中で、その言葉が何度も反芻される。
二人で並んで歩く姿。
同じ屋根の下。
昔から、当たり前みたいに一緒だった時間。
俺が知らない時間。
俺が入り込めない時間。
寮の前で、初めて会った。
俺にとっては、それが「始まり」だった。
でも、あいつにとっては――
もっと前から、続いている関係。
(……ずるくないか、それ)
無意識に、奥歯を噛む。
俺は、横に立てる。
今は、隣に座れる。
一緒に笑える。
でも。
「帰る場所」が、俺じゃない。
それを、本人が何の迷いもなく言えるのが、きつかった。
セナは、悪くない。
そんな顔、一切してなかった。
本当に、ただの事実として。
「そうだよ?」って、あっさり。
(……俺だけだな、変なの)
そう思って、ため息を吐く。
でも。
並んで歩く背中を思い出す。
寝癖のまま駆け込んできた朝。
俺の皿の料理を奪って笑った顔。
あれを見て、何も感じないほど、
俺は器用じゃなかった。
(俺達……そういう仲、だよな?)
誰にも聞けない問いが、胸の中で膨らむ。
恋人だって言われたわけじゃない。
約束したわけでもない。
でも。
他の男と、同じ距離でいられると思うと――
胸の奥が、じわじわと苦しくなる。
幼馴染。
その言葉が、
ただの関係性じゃなくて、
“俺の知らない居場所”として、
重くのしかかってくる。
(……負けたくねぇな)
小さく、そう思った。
まだ、何者でもないけど。
まだ、確定してないけど。
それでも。
あの距離を、
あの「当たり前」を、
簡単に譲れるほど――
俺は、もう、軽くなかった。




