朝の約束
日が、まだ昇りきらない時間。
窓の外は薄い青で、学園全体が眠りの名残を引きずっている。
その静けさの中で、ラウルはもう身支度を整えていた。
魔術科は朝が早い。
訓練も、座学も、油断すれば命取りになる。
ベッドの中で、私は半分眠ったまま、目をこすった。
「……怪我には、気を付けてね」
声が少し掠れて、自分でも笑いそうになる。
それでも、伝えたいことだけははっきりしていた。
ラウルは立ち止まって、こちらを見る。
「外套」
短く切り出す声。
「香りが、もう無くなった。新しいのが欲しい」
……そこ?
一瞬そう思ってから、胸の奥がきゅっとする。
「私も……」
口が、勝手に動いた。
「私もラウルの欲しいなーって。
森で、ちょっと後悔したんだよね」
言った瞬間、
自分でも、少しだけ驚いた。
あの夜。
枕を抱いて。
香りが足りなくて。
なかなか眠れなかったこと。
――あれは、ただの習慣だと思っていたのに。
「次は、ちゃんと交換しよ」
冗談みたいに言ったつもりだった。
軽く。
深く考えないように。
でも。
返ってきたのは、低い声。
「……約束だ」
短い。
即答。
逃げ道のない言い切り。
顔を上げると、
もう、すぐそばに来ていた。
距離が、近い。
額に、そっと触れる温度。
触れて、離れるまでが一瞬なのに、
その一瞬が、やけに残る。
「行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
背中を見送る。
扉が閉まって、
足音が廊下の奥へ消えていく。
――静か。
ベッドに倒れ込むと、
まだ、ラウルの気配が残っている。
香り。
体温。
昨夜の名残。
胸の奥が、じんわり温かいまま。
「……眠い」
そう呟いて、
私はもう一度、目を閉じた。
二度寝。
それだけのはずなのに、
夢の中まで、
ラウルがいた。




