表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/193

セナの寝顔を脳に焼き付ける

再会の前夜から、

俺はずっと落ち着かなかった。


眠れない、というより、

眠ってしまうのが惜しかった。


目を閉じれば、

セナに会えるまでの時間が、減ってしまう気がして。


……馬鹿みたいだ。


神殿の回廊で、

何度も彼女の名前を心の中で呼んだ。


セナ。


俺の名前を、

初めてちゃんと呼んでくれたのも、彼女だった。


赤子のころ。

危なっかしい俺は、

何度も、何度も、

命の縁に足をかけた。


水に落ちかけた。

段差で転げ落ちかけた。


寝ている間に、

布が顔を覆いかけたこともあった。

息が苦しくなって、

何が起きているのかわからなくて、

ただ、必死にもがいた夜。


小さなものを口に入れて、

喉に詰まらせたこともある。

息ができなくなって、

視界が暗くなっていく感覚。


熱いものに触れそうになったことも、

何度もあった。


――あ、これは死んだな。


そう思った瞬間は、

一度や二度じゃない。


そのたびに。


必ず、

セナの手があった。


小さな手。

でも、迷いのない動き。


引き戻す。

外す。

払いのける。


泣くより先に、

俺を守ることを選ぶみたいに。


泉から、

記憶や思い出、経験が一気に蘇った時。


自分でも、呆れた。


……よく、生き延びたな。


いや。


生き延びさせられた、んだ。


今、隣で眠っているセナを見る。


穏やかな寝息。

長い睫毛。

微かに開いた唇。


赤子だったころの面影を、

ほんの少しだけ残して、

ちゃんと“彼女”になっている。


美しい。


その事実に、

胸の奥が、ざわつく。


触れたい。

抱き寄せたい。


けれど、それ以上に、

壊したくない。


理性が、

本能を必死に押さえ込む。


俺は、息を殺して、

そっと顔を近づけた。


おやすみ、セナ。


唇に、

ごく軽く、重ねる。


それだけで、

胸がいっぱいになる。


……でも、気を付けなくちゃ。


母さんと、父さんみたいに、

想いが強すぎて、

自分を見失ったら――


取り返しが、つかなくなる。


泉は、

記憶を鮮明にしてくれた。


同時に、

忘れていた恐怖や、

あの夜の息苦しさも、

一緒に、連れ戻してきた。


トラウマは、

消えてなんかいない。


だからこそ。


俺は、

この温度を、

この寝顔を、

脳に焼き付ける。


守るために。

離さないために。


そして――

壊さないために。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ