ペアの距離、幼馴染の距離
最初に違和感を覚えたのは、周囲だった。
休日の街路。
学園から伸びる石畳の通りは、屋台と人で賑わっている。
焼き菓子の甘い匂い、香草の束、布を揺らす風。
どこにでもある、平和な休日。
その中で、二人は――妙に目を引いた。
銀色の髪の少女と、茶色の髪の青年。
歩幅が揃っている。
声を荒げることもなく、立ち止まる位置も自然だ。
「次、あっち見てみる?」
「いいな。さっきの屋台、戻る?」
会話は短い。
でも、噛み合っている。
横に並ぶ距離が近い。
近いのに、無理がない。
少し離れたところで、それを見ていた別の生徒が、無意識に口にした。
「……あれ、付き合ってるよな?」
隣が、肩をすくめる。
「でしょ。あの距離は“ペア”だよ」
特別な仕草があるわけじゃない。
手を繋いでいるわけでも、腕を組んでいるわけでもない。
ただ――
片方が立ち止まれば、もう片方も止まる。
目線を向けなくても、次の動きが読めている。
それは、
日常を一緒に過ごした距離だった。
⸻
セナは、楽しんでいた。
屋台を覗いて、笑って、驚いて。
久しぶりの街は、色が多い。
「これ、変成で再現できそうだね」
「できそう。材料分解すれば」
当たり前みたいに返ってくる声に、少し笑う。
――頼りになる相棒だな。
胸の中で、そんな言葉が浮かんで、すぐに消えた。
歩きながら、ふと背中が冷える。
(……ん?)
理由はわからない。
視線を感じたわけでも、音がしたわけでもない。
ただ、一瞬だけ、
空気が薄くなった気がした。
足を止める。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
屋台の呼び声。
人の笑い声。
焼き菓子の匂い。
(気のせい、だよね)
横を見上げると、穏やかな笑顔があった。
「次、あっち行こ」
「うん」
自然に頷いて、歩く。
――だから、気づかなかった。
自分の“距離”が、
誰かにとっては、致命的な宣告になっていることを。
⸻
人の影。
店先の硝子。
屋台の鉄鍋に映る歪んだ輪郭。
銀色の髪。
横に並ぶ影。
揃った歩幅。
(……そうか)
思考は、不思議なほど静かだった。
怒りも、焦りも、湧かない。
ただ、理解だけが落ちてくる。
――ペア。
あの距離は、知っている。
かつて、自分がいた場所だ。
無意識に、唇の裏を噛む。
呼ばれていない。
視線も、向けられていない。
それだけで、十分だった。
(俺は、外)
確認。
再確認。
胸の奥で、何かが“切れる”感覚がした。
音はしない。
でも、確かに――切れた。
置いていかれた、ではない。
奪われた、でもない。
選ばれていない。
それだけの事実が、
静かに、深く、突き刺さる。
ラウルは、歩き出す。
人の流れに紛れ、
影に溶け、
視界から消える。
セナの背中は、最後まで振り向かなかった。
それでいい。
(……ああ)
夜が来る。
何かが、始まる音がした。
――自分の中で。




