寮の部屋でふたり
ラウルの腕を引いて、寮の廊下を進む。
引っ張っている、というより。
離れないように、確かめているみたいだった。
扉を開けると、いつもの部屋。
でも、今日は少しだけ違う。
俯いたままのラウルを、ベッドの端に座らせる。
大きな体が、素直に従って沈んだ。
「私、お風呂まだなんだよね」
声を落として、様子をうかがう。
「少しだけ、ここで待ってもらえる?」
ラウルは顔を上げないまま、頷いた。
それだけで、胸がきゅっとする。
――待てるようになったんだ。
シャワー室へ向かう。
扉を閉めて、深呼吸。
制服を脱いで、髪を解く。
シャワーの湯が、肩を流れる。
今日一日のこと。
学園に戻ったこと。
A班のこと。
ラウルの、あの目。
全部、混ざって、ほどけていく。
(……ちゃんと、戻ってきたんだな)
身体を拭いて、寝支度をして。
少しだけ急いで、部屋へ戻る。
扉を開けた瞬間。
――いた。
ラウルが、私の枕に顔を埋めている。
枕を抱えるみたいに、
深く、深く。
一瞬、息をするのも忘れた。
(……ああ)
こっちを見た。
ゆっくりと、視線が合う。
そして、何も言わずに――
腕を、広げた。
招く、というより。
求める、みたいに。
私は、ふっと笑った。
足音を殺して、近づく。
そのまま、
素直に、腕の中へ。
ぽふっ。
胸に、頬が当たる。
どくん。
どくん。
久しぶりの心音。
「……はぁ」
思わず、息が漏れた。
「帰ってきた実感、湧く」
そう言ったら、
ラウルの喉が、小さく鳴った。
腕が、セナを包む。
強くない。
でも、ほどけない。
額に、口付けが落ちる。
短く。
確かめるみたいに。
「三ヶ月間」
低い声。
「野外訓練だと……」
一拍。
「セナが居なくなった後に、気付いた」
胸に、ぎゅっと力がこもる。
言葉の続きを、待たなくてもわかる。
眠れなかったこと。
呼吸が足りなかったこと。
夢が、悪夢だったこと。
全部。
「……そっか」
セナは、ラウルの背中に腕を回す。
ぎゅっ。
「でも、今はいるよ」
ぽん。
ぽん。
いつものリズム。
「ここ」
胸を、軽く押す。
「ちゃんと、戻ってきた」
ラウルの呼吸が、揃う。
少しずつ。
ゆっくり。
額が、肩に預けられる。
重さが、心地いい。
「……逃げない?」
囁くみたいな声。
セナは、即答した。
「逃げない」
迷いなく。
「だから、寝よ」
布団を引き寄せる。
二人分。
ラウルは、何も言わずに頷いて、横になる。
腕は、離れない。
離す気も、ない。
電灯を落とす。
闇の中で、心音が重なる。
三ヶ月、空いた距離。
今日、ちゃんと、塞がれた。
今はただ――
同じ部屋で、
同じ夜を、
一緒に眠る。
それだけで、十分だった。




