眠れないらしい
「おやすみー!」
元気よく挨拶して、部屋に入る。
扉を閉めて、深呼吸。
……さぁ、寝るぞ!
久しぶりの実家。
柔らかい寝具。
神殿の寝台とは違う、馴染んだ匂い。
これでぐっすり――
コンコンコン。
……早い。
「はーい。
ちょっと待ってねー」
のそのそと扉へ向かい、
鍵を外す。
カチャ。
そこに立っていたのは、
さっきまで隣で夕食を食べていたラウルだった。
真顔。
「一緒に寝たい」
「……いや、無理でしょ」
即答で、扉を閉め――
ガッ。
足。
扉と床の間に、
思い切り足を突っ込んでくるラウル。
「ちょ、何するの!?」
「ずっと長年一緒に寝てた!」
声が、やけに必死だ。
「君はそんな薄情者だったの!?」
次の瞬間。
ぽろ。
ぽろぽろ。
……泣いた。
え。
泣くの!?
ここで!?
一瞬、完全に固まる。
そうだ。
思い出す。
ずーっと。
ほんとうに、ずーっと。
八十年。
毎日。
赤子の頃から、
隣で寝てた。
同じ天井。
同じ布団。
同じ寝息。
……急に一人は、そりゃ無理か。
「……仕方ないな!」
そう言った瞬間。
ぱぁっ、と。
信じられないくらいの、満面の笑顔。
切り替え、早っ。
気づけば、
私の部屋に、ラウルがいる。
布団が、二人分。
横になると、
距離が近い。
近いけど、
赤子時代を思えば、これでも遠い。
それから、
眠気が来るまで、
話が尽きなかった。
泉に投げ込まれた話。
神殿での一年。
講義が眠かった話。
失敗した魔術の話。
笑って、驚いて、
時々、声を潜めて。
「……もう、瞼が限界」
先に音を上げたのは、私だった。
「おやすみ、セナ」
ラウルの声は、
昼間より少し低い。
目を閉じる。
意識が、ゆっくり沈んでいく。
その瞬間――
唇に、
何かが触れた……ような、気がした。
気のせい?
夢?
問いを確かめる前に、
眠りが、すべてをさらっていった。




