変わった幼馴染
手を引かれたまま、足がもつれる。
どこへ行くのかも聞けない速度で、廊下を抜けて、
辿り着いたのは――寮の裏手。
人の気配が薄い。
風の音だけが、壁に反射している。
次の瞬間。
背中に、硬い感触。
壁。
……壁ドンだ。
一瞬、何が起きたかわからなかった。
視界が近い。
息が、混ざる。
低い声が、耳の奥に落ちてくる。
「俺は、セナの嫁だよな?」
――え。
思考が、置いていかれる。
でも、問い詰める声音じゃない。
確認。
縋るみたいな。
瞬きをして、喉を鳴らして、
私は、ゆっくり頷いた。
「……うん」
その瞬間だった。
ラウルが、私の肩に額を落とした。
重さが、どっと伝わる。
「……よかった」
掠れた声。
左腕が、腰に回る。
逃げ道を塞ぐみたいに、右腕が壁へ。
囲われた。
でも、怖くはない。
ただ――近い。
「他の男と、話すなよ」
命令じゃない。
懇願に近い。
胸の奥で、何かがきゅっと縮む。
「……ラウル」
名前が、こぼれた。
その瞬間。
首元に、熱。
歯。
「痛ッ」
短く声を上げた私に、
ラウルはすぐに動きを止めて、
噛み跡を、舐めた。
……びっくりした。
でも、雑じゃない。
怒りじゃない。
必死だった。
両腕が、ぎゅっと回される。
力が強い。
でも、壊す力じゃない。
「……セナ」
息が、震えている。
私は、少し迷ってから、
恐る恐る、腕を回した。
背中に、
幼い頃から知っている体温。
ぎゅっ、と抱き締め返す。
「……大丈夫だよ」
そう言ったつもりだった。
でも、声は小さくて、
届いたかどうかは、わからない。
それでも。
ラウルの呼吸が、
ゆっくり、整っていくのがわかった。
胸が、上下する。
さっきまで、息をしていなかったみたいに。
――ああ。
初めて。
この人が、
ちゃんと息をしている。
そんな気がした。
変わったのは、ラウル。
でも、変わらせたのは、たぶん。
私だ。
胸の奥が、少しだけ、ざわついた。




