学園へ帰る道
野外訓練、三ヶ月。
長かったはずなのに、
振り返ると、驚くほど短い。
荷をまとめ、さら地になった場所を背にして、
私たちは並んで歩いていた。
森は、もう何事もなかった顔をしている。
昨日まで家があり、畑があり、笑い声があったなんて、
誰が信じるだろう。
足元の土は柔らかく、
踏みしめるたびに、かすかな湿り気が残っている。
「……静かだな」
ぽつりと落ちた声に、
誰もすぐには返事をしなかった。
あれだけ賑やかだったのに。
朝は鍋の音、昼は作業の声、夜は焚き火と笑い。
今は、足音と、風と、鳥の声だけ。
「当たり前なんだけどさ」
少し前を歩く背中が、振り返らずに言う。
「ちゃんと終わったんだなって、今さら実感してる」
その言葉に、
胸の奥が、きゅっと締まった。
終わった。
壊した。
戻った。
全部、正しい。
でも――
「……戻る場所、あったよね。あそこ」
誰かが、言いづらそうに言った。
歩調が、わずかに乱れる。
「家だったし」
「村だったし」
「……居場所だった」
誰も否定しなかった。
森の中で、
生きるために組んだ関係は、
“訓練だから”では済まされないほど、深く染みついている。
前を歩く銀色の髪が、立ち止まった。
振り返って、
少し困ったように、でもはっきり言う。
「でもさ」
視線が、ひとりひとりをなぞる。
「無くなったわけじゃないよ」
一瞬、何のことかわからなくて、
皆が黙った。
「作ったものは消えたけど」
「やったことも、選んだ判断も」
「生き延びた事実も」
指先が、ぎゅっと握られる。
「私たちの中には、残ってる」
その言葉に、
誰かが小さく笑った。
「……族長っぽいこと言うじゃん」
「言うな!!」
即座に返ってきた声に、
緊張が、ふっとほどける。
「でも、ほんとだな」
「ここでやったこと、学園じゃ出来ないし」
「でも、ここで出来たこと、学園で活きる」
荷を背負い直す音。
歩き出す足音。
「なにより」
少し後ろから、
低く、落ち着いた声。
「俺たち、欠けなかった」
それだけで、
十分だ。
校舎が見えてくる。
白い石壁と、整えられた道。
安全で、清潔で、ちゃんとした世界。
一歩踏み出す前、
誰かが、ぽつりと呟いた。
「……また戻れたらいいな」
誰も、笑わなかった。
否定もしなかった。
ただ、
それぞれの胸に、
同じ温度の何かを抱えたまま。
私たちは、学園へ帰った。




