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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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ペアにしか見えない

野外訓練であることを、うっかり忘れそうになる瞬間がある。


森の奥。

張り巡らされた拠点。

立ちのぼる煙と、乾いた木の匂い。


変成科の野外訓練は、いつの間にか「生活」になっていた。


最初の頃の、張り詰めた空気。

雨に怯え、夜に震え、必死に生き延びていた時間は、もう遠い。


今は――

火は安定し、

水は足り、

食料は回り、

拠点は補修され続けている。


そして、もうひとつ。


変成科には、やけに“ペア”が多かった。


道具を共有する二人。

作業を分担する二人。

自然に隣に立つ二人。


誰が決めたわけでもない。

でも、生き延びる中で、自然と固定されていった関係。


少し離れた場所では、腰まで伸びた髪を束ねた少女と、背の高い青年が並んで作業している。

水路を整え、土を均し、時折、顔を見合わせては短く言葉を交わす。


あちらでは、硬い表情の青年が、無言で木材を運び、

それを受け取った少女が、小さく頷く。


「……あれ、完全にペアだよね」


ぽつりと漏れた声。


言ったのは、他班の生徒だった。

自分の拠点の補修を終え、少し休憩に入ったところで、視線の先を指さす。


「ああ。あっちはもう公認だろ」


答えた別の生徒は、苦笑いを浮かべている。


シアンとファルケ。

最初は距離の測り合いだった二人も、今では呼吸が合っていた。

危ない場所では、自然と腰に手が回り、

足場が悪ければ、言葉より先に支えが入る。


誰も突っ込まない。

誰も冷やかさない。


この森では、それが“普通”だからだ。


生きるために。

守るために。

そして、長い時間を共にするために。


そうやって、自然と種は残る。

安定した場所に、関係が根を下ろす。


だから、他班でもペアは増えていた。

焚き火の管理を任される二人。

見回りを交代で行う二人。

夜番を組む二人。


野外訓練という極限が、人を近づける。


そんな中――

ひときわ、目を引く二人がいた。


木陰。

地面に敷かれた布の上。


銀色の髪が、光を受けて淡く揺れる。

蒼い瞳の少女が、道具を並べていた。


その隣に、迷いなく腰を下ろす青年。

茶色の髪。

焦げ茶の瞳。

長身で、しなやかな筋肉を持つ、美青年。


屈託のない笑顔で、布の端を押さえる。


少女が、ぽつりと口を開いた。


「この辺、補修した方がいいかも」


言葉が終わる前に、青年は立ち上がっている。


「了解。材料、取ってくる」


短い。

無駄がない。

でも、ずれていない。


戻ってきた青年が、濡れた手で籠を置くと、

少女は何も言わず、布をずらして場所を作った。


近い。


距離が。


「……あの二人さ」


別の班の女子が、声を潜める。


「どう見ても、ペアじゃない?」


誰かが吹き出した。


「いや、もうペアでしょ」

「付き合ってないって言われたら、こっちが困る」


並んで作業する背中。

同じ速度で動く手。

視線を合わせなくても、次の行動が読める関係。


少女は、全体を見る。

誰かが困っていれば声をかけ、

全体の流れを整える。


でも、

青年がそばにいる時だけ――


判断が速い。

迷いがない。


青年の方も同じだった。


荷が増えれば、黙って持つ。

足場が悪ければ、先に立つ。

声を荒げることはないが、

立ち位置は、いつも半歩前。


守る、でもない。

従う、でもない。


“組んでる”。


それが、一番しっくりきた。


昼過ぎ。

即席のテーブルで食事が始まった。


「それ、火通し足りないかも」


少女が言うと、

青年は自分の皿を差し出す。


「じゃあ、こっちと交換しよ」


当たり前のように、皿が動く。


遠慮も、

確認も、

照れもない。


それを見ていた他班の女子が、ぽそっと言った。


「……あの子、無自覚なのが一番罪だよね」


青年の方は、隠していない。

視線も、距離も、態度も。


でも少女は――

仲間として、

相棒として、

自然に受け取っている。


だからこそ、余計に。


「学園戻ったら、どうなるんだろ」

「この距離、続くと思う?」


誰も答えなかった。


森の中では、許される距離。

生きるために、必要な距離。


でも、

学園では?


その時、

少女がぱっと顔を上げた。


「よし、次はあっち行こ!」


明るい声。


青年が、即座に立ち上がる。


「了解」


迷いのない返事。


それを見て、

他班の生徒は肩をすくめた。


「……あれはもう、カップルだろ」


そう言い切るしかないくらいには。


二人の距離は、

外から見れば、

あまりにも――完成していた。




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