族長と木苺
木苺は、朝の光を受けて赤く艶めいていた。
露を残した実が、枝先で揺れている。
俺は籠を持って、隣を歩く背中を見ていた。
小さくて、でも迷いのない足取り。
枝を分け、棘を避け、迷わず手を伸ばす。
……慣れてる。
森で生きることに。
人と生きることに。
「こっちの木、当たりだよ!」
振り向いた顔が、ぱっと明るくなる。
その瞬間、胸がきゅっとなる。
(……好きだな)
もう、隠しようがなかった。
最初は、面白い子だと思った。
次は、すごい人だと思った。
その次は――一緒にいるのが、当たり前になった。
気づいたら、横にいた。
籠がいっぱいになると、自然に手を伸ばしていた。
「俺が持つよ」
驚いた顔。
でも、すぐに笑う。
「ありがとう。頼りになるー!」
その一言が、刺さる。
(……俺たち、もう、そういう関係だよな?)
一緒に動いて。
一緒に作って。
一緒に笑って。
一緒に生き残って。
これはもう――
カップルだろ。
昼の光の中、木苺を煮詰める鍋を囲む。
甘い匂いが立ち上る。
指先が近い。
肩が触れる。
避けない。
むしろ、自然。
「ね、これ、もう少し煮詰める?」
覗き込んだ横顔が、近い。
(……近い、近いって)
心臓が忙しい。
でも、嫌じゃない。
むしろ、嬉しい。
出来上がったジャムを味見して、目を輝かせる。
「うん!成功!」
その笑顔を見て、思わず言っていた。
「……学園に戻っても、一緒にいような」
一瞬だけ、きょとんとした顔。
でも、すぐに、いつもの調子で。
「A班は不滅。ずっと三年一緒じゃん。当たり前」
……だよな。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
当たり前。
一緒。
三年。
それって、もう、将来の話じゃないか。
(……よし)
俺は決めた。
この人を、守る。
この人の隣に、立つ。
この人と、生きていく。
それが“族長”でも、
“変成科の要”でも、
――俺にとっては。
大切な人だ。
木苺の籠を抱え直しながら、空を見上げる。
晴れてる。
いい日だ。
(……なあ、族長)
この距離が、
当たり前だと思ってるの、
俺だけじゃないよな?
そう信じて、
今日も隣を歩く。
――完全に、恋をしていることに、
疑いすら持たずに。
レック・レス視点




