変成科の戦闘
「……罠、まだ使える」
声は、震えていない。
セナは足元の地面に手を置いた。
指先から滲んだ魔力が、土の質を静かに変えていく。
硬かった地面が、じわりと沈む。
踏み込めば足を取られる――泥。
「下がって。位置、誘導する」
短い言葉。
それだけで、A班は動いた。
一歩前に出たのは、レックだった。
肩を回し、深く息を吸う。
囮役。
盾役。
一番、危ない役。
木々の影から、低く重い気配。
枝が揺れ、獣の足音が近づく。
レックは幹を盾に身体を滑らせ、突進をかわした。
角が空を切り、木が軋む。
「こっちだ!」
声を張る。
魔物の視線が、完全に彼へ向いた。
セナは、その背中を見ながら地面をなぞる。
泥の範囲を、ほんの少しだけ広げる。
別方向では、ファルケが低く呟いた。
「……煉瓦、硬化」
地面に露出した石が、瞬時に締まり、
獣道が“自然な傾斜”に変わる。
シアンは、視線を巡らせながら両手を掲げていた。
水の流れを読んで、落とし穴へ導く溝を整える。
「今なら、行ける……!」
息を詰めた声。
――来る。
距離、あと数歩。
セナが短く言う。
「罠、直前」
レックは、全力で踏み込んだ。
跳ぶ。
次の瞬間。
……ドーーーーン。
地面が震え、空気が裂ける。
巨大な影が落ち、杭に――串刺し。
数秒。
誰も、動かない。
ファルケが、慎重に覗き込み、低く言った。
「……停止」
「……やった?」
シアンの声が震える。
「鹿肉ーーーーーー!!!!!」
セナの叫びを皮切りに、変成科の森が爆発した。
「でかい!」
「勝った!?」
「生きてる!生きてる!!」
地面には、レックが仰向けで転がっていた。
胸が大きく上下している。
セナが駆け寄り、しゃがみ込む。
その胸元をぎゅっと掴んで。
「いのちだいじに!」
そして、ほっと力が抜けた顔で。
「……レック、ありがとう」
その一言で、完全に落ちた。
レックは、息を切らしながら笑った。
「セナを守れた。俺は……セナの為なら死ねる」
即座に、ファルケ。
「死んだら終わり」
間髪入れず、シアン。
「バッカだーコイツー!」
セナが手を叩く。
「決めゼリフきた!」
もう、笑うしかなかった。
怖くて。
必死で。
でも――助かった。
そして。
肉。
ワイルドディアー。
とんでもなく大きい。
その夜。
浄化した鹿肉が、火の上で音を立てる。
脂が落ち、香りが広がる。
「焼けてる……!」
「保存分も確保しよ!」
「燻製いける!」
セナは手早く指示を飛ばす。
干し肉用、塩漬け用、燻し用。
食べて、笑って、保存して。
A班――
セナ、レック、ファルケ、シアン。
生き延びた。
変成科は、今日も生きた。
そして、次に備える。




