戦闘魔術科、単科訓練という檻
魔術科の朝は、静かすぎた。
広い訓練場。
天井の高い石造りの空間。
並ぶのは、魔術科の学生だけ。
他の科はいない。
騎士科も、治癒魔術科も、変成科も。
――単科訓練。
それが、魔術科の当たり前だった。
「詠唱、開始」
教官の声が落ちる。
魔力が走る。
空気が震え、肌がひりつく。
一歩間違えれば、誰かが死ぬ。
それを理解した者だけが、ここに立っている。
火。
雷。
圧縮された風。
制御、制御、制御。
暴走すれば、敵味方の区別はない。
……当たり前だ。
俺は、魔術を放ちながら、ふと視線を逸らした。
誰もいない場所を見る癖が、抜けない。
「……」
脳裏に浮かぶのは、別の光景。
布越しの明かり。
肩が触れる距離。
――違う。
ここには、そんなものはない。
訓練が終わる頃には、腕が重く、喉が焼けるように痛かった。
汗と魔力の残滓が、身体にまとわりつく。
「昼だ」
誰かが言う。
魔術科の学生が、無言で食堂へ向かう。
扉をくぐった瞬間、音と匂いが押し寄せた。
人の声。
食事の香り。
生きている気配。
視線が、勝手に探す。
……いない。
いつもの場所。
いつもの窓辺。
そこに、いない。
変成科の連中が、まとめて消えている。
「……?」
胸の奥が、ざわついた。
列に並び、無意識に周囲の会話を拾う。
「変成科さ、全員野外訓練らしいぞ」
「え、単科?」
「三ヶ月だって」
「正気かよ……」
三ヶ月。
その言葉が、耳に残る。
――三ヶ月。
頭の中で、数字が意味を持ち始める。
セナ。
名前を呼びそうになって、喉で止めた。
知らない。
何をしているのか。
どこにいるのか。
無事なのか。
共有されるはずもない。
単科訓練。
情報は遮断され、他科の様子は噂でしか流れてこない。
「……」
トレーを持つ手に、力が入った。
守るために、ここにいる。
強くなるために、ここにいる。
そう決めた。
そう、決めたはずなのに。
魔術を放つたび、
制御するたび、
生き残るたびに。
胸の奥が、空いていく。
夜の訓練は、さらに苛烈だった。
暗闇の中で魔術を扱う。
視界が奪われ、感覚だけが頼りになる。
教官が言う。
「恐怖に慣れろ」
「死を想定しろ」
「躊躇するな」
……わかっている。
俺は、何度も死の縁に立ってきた。
だからこそ、わかる。
ここは、檻だ。
逃げ場のない、
選択肢のない、
強さだけを求められる場所。
夜。
寮の部屋に戻る。
静かすぎる。
隣の呼吸が、ない。
外套を手に取る。
指先に残る、かすかな香り。
……薄い。
上書きされる。
時間が、距離が、奪っていく。
「……セナ」
声に出しても、返事はない。
拳を握る。
今夜も息ができそうにない。




