土砂降りの豪雨で夜を
雨が、叩きつけてくる。
上からも、横からも、斜めからも。
容赦なく、遠慮なく、世界そのものがこちらを試しているみたいだった。
靴の中は、もうとっくに終わっている。
一歩踏み出すたびに、ぐちゅ、と嫌な音がした。
(……これ、三ヶ月)
拠点、と言われたこの場所で。
変成科A班は、これから三ヶ月、生きる。
「ねぇ」
雨音に負けないよう、少しだけ声を張った。
「ここで生活するってことはさ」
一拍。
「……家、作るってことだよね?」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「それ、体力と魔力が残ってる今のうちにやるべきだろ」
「賛成。後回しにしたら死ぬやつ」
「屋根は正義」
即答の嵐だった。
あ、これ――
この班、思ってたよりずっと、頼もしい。
そう。
変成科は、自由だ。
命を守るためなら、やり方も、形も、選ばない。
遠くで、やたらと元気な声が響いた。
「いいかー!自然の中には使えるものが山ほどある!A班からJ班まで、気を抜かずに拠点を構築するんだぞー!」
……雨、見えてる?
ざわざわ、がやがや。
各班が一斉に動き出す。
「ちょっと、ここ支えてほしい!」
そう言って布を広げた瞬間、
横から、ためらいなく身体が寄せられた。
濡れた布の端を、がっちりと押さえ込む。
力強くて、迷いがない。
セナが顔を上げると、
にかっと歯を見せる笑顔。
「当然」
……あ、これ。
この言い方は、レックだ。
「ありがとう!」
雨を避けるため、まずは屋根。
というか、もうこれはテントじゃない。
足元は土砂降りでえぐれて、完全に沼。
このままじゃ、寝たら溺れる。
「乾燥。土台、盛り上げて……煉瓦!」
セナの声に、即座に反応が返る。
低く短い詠唱。
地面に魔術陣が展開され、
ぐにゃぐにゃだった土が、みるみる固まり始める。
煉瓦の形に、きっちりと。
(……ファルケだ)
無駄がない。
構造から考えてる。
その横では、別の動き。
水の流れを読み、
雨が自然に外へ逃げる溝を引いていく。
足で地面を確かめながら、
慎重に、でも手早く。
(シアン……だよね)
さっきまで「このメンバー不安しかない」とか思ってた自分を、
全力で殴りたい。
――ごめん。
頭の中で、前世の家の間取りを引っ張り出す。
「部屋は四つ!中央に共有スペース!出入口はここ!」
指示を飛ばすと、返事が被さる。
「了解」
「動線いいね」
「寝る場所分けられるの助かる」
テンポが、いい。
「……名前、付けない?」
ふと誰かが言って、
一瞬の間。
「ファンタスティック!スターハウス!」
言い切った瞬間、
ぷはっと吹き出す音があちこちから上がった。
「そのセンス、嫌いじゃない」
「気分は大事」
「雨の中でテンション下げると死ぬ」
高さは三メートル。
土砂降りが横殴りでも入らないよう、高床式。
階段は四段。
五歩目で、ようやく“家の中”。
ドアは、まだ。
窓も、ただの穴。
でもいい。
ここは、今日を生き延びる場所だ。
「基礎、箱、屋根!」
一拍置いて、
「あと、風呂とトイレ!!」
一斉に、笑い声。
でも、誰も否定しない。
「それ、最優先」
「衛生管理は命」
「変成科なめんなよ」
雨の中、泥だらけで、
それでも全員、前を向いている。
胸の奥が、じわっと熱くなった。
「……唸れ!」
ぎゅっと拳を握る。
「遺伝子!!」
雷鳴が、遠くで落ちた。
でも不思議と、怖くなかった。
生きるために、全力で準備している。
この班で。
この場所で。
――他の班、全部置いていこう。
そんな確信だけが、
豪雨の夜に、しっかりと根を張っていた。




