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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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ひとりの夜

今日の合同訓練は、正直に言って地獄絵図だった。

見学――という名目だったはずなのに、実際は補助と後始末と、息をつく暇もないサポート。

先輩たちの動きは速く、判断は容赦なく、魔術は“生きるか死ぬか”の線を平然と越えてくる。


(……あれを、自分たちが?)


無理でしょ。

喉の奥まで出かかった言葉を、なんとか飲み込んだ。


訓練が終わって寮に戻るまで、足は鉛みたいに重かった。

廊下の灯りは暖かいはずなのに、胸の奥が妙に冷える。


部屋に入る。

静か。

音がない。


「聞いてよ!ほんと無理じゃない!?」


いつもの癖で、声に出してしまってから気づいた。

返事は、ない。


……あ、そうだ。

ラウルはいない。


同じ学園。

同じ敷地。

でも、今は別々の寮。

別々の夜。


ベッドに腰を下ろすと、反動でどっと疲れが押し寄せた。

いつもなら、背中に感じるはずの熱がない。

腕を回される感覚も、心臓の音も、ない。


(……静かすぎ)


枕に顔をうずめる。

布の匂いは、洗剤の匂いだけ。


「あー……私もラウルの香り付き、もらっとけば良かった」


ぽつり、と独り言。

言ってから、少しだけ恥ずかしくなって、でも誰も聞いていないからそのままにした。


枕をぎゅっと抱きしめる。

これ、抱き枕じゃないのに。

でも、腕に力を入れないと、落ち着かない。


(……大丈夫かな)


今日の訓練を思い出す。

魔術科の風圧。

火の熱。

倒れる先輩たち。

生き残るための動き。


ラウルは、あの中にいる。

前に出る側。

壊す側。


「……ちゃんと、ご飯食べてる?」


聞こえないと分かっていても、問いかけてしまう。

返事は、やっぱりない。


布団に潜り込む。

身体は疲れているはずなのに、目が冴える。


(私、ずっと守る側だったのに)


気づけば、守られていた。

一緒に寝るのが当たり前で、声が近くて、熱があって。


それが、今日だけで、こんなにも遠い。


「……言ってよ」


小さく、枕に向かって。


「無理って言ったら、無理じゃないって」


勝手だな、と思って苦笑する。

でも、それが出来たのは、隣に誰かがいたからだ。


枕を、もう一度ぎゅっと抱いた。


「……早く慣れなきゃ」


変成科は後ろに立つ。

支える側。

前に出ない。


だからこそ――ちゃんと立たなきゃ。


天井を見つめる。

静かな夜。


(ラウル……)


名前を呼ばずに、胸の中でだけ思った。

呼べば、余計に寂しくなる気がしたから。


そのまま、目を閉じる。

ひとりの夜は、思ったより広くて、思ったより冷たかった。



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