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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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魔術科、初日から血の匂い

扉を開けた瞬間、空気が違った。

重い。

湿り気を帯びた、鉄の匂い。


教室というより、訓練場だ。

天井は高く、床は硬い石。

壁際には魔力遮断の刻印が幾重にも走り、中央には広い空間が取られている。


――ここは、壊す場所だ。


「静かに」


教官の声が落ちる。

低く、抑えた声。

一言で、ざわめきが止んだ。


「魔術科は、一歩間違えれば敵味方を巻き込み、死滅する」


当たり前の話だ。

それを、わざわざ最初に言う。


「魔力が暴走すれば、制御は利かない」


淡々と続く。


「水なら溺死。

 火なら焼死。

 雷なら感電死。

 土なら圧迫死。

 風なら――」


一拍。


「切り刻む」


言葉が、空気に沈む。


「戦闘魔術とは、死を招く者だ。

 自覚のない者から、先に消える」


誰も笑わない。

誰も軽口を叩かない。


俺は、静かに息を吐いた。


(知ってる)


水に沈んだ。

息ができなくなった。

身体が重くなり、視界が暗くなった。


火に触れた。

皮膚が焼ける匂いを、覚えている。


雷が走った。

一瞬で思考が白く飛ぶ感覚も。


土に押し潰されかけた。

風に裂かれたこともある。


――死は、何度もすぐそばにあった。


「では始める」


教官の合図で、班分けがなされる。

即席。

相性など考えない。


「模擬戦だ。

 制御を失った者は即退場」


魔力が立ち上る。

色も、質も、ばらばら。


俺は前に出た。


詠唱は短く。

魔力を絞る。

余計な感情は、切り落とす。


(巻き込むな)


風が走る。

床を削り、相手の足元を払う。


反撃。

火。


熱が頬を掠める。

でも、止まらない。


身体が、勝手に動く。

生き残るための動き。


「……」


周囲が、一瞬静まった。


俺の動きが、速すぎる。

制御が、馴染みすぎている。


教官の視線が、鋭くなる。


(警戒してるな)


当然だ。

初日で、ここまで“死を避ける動き”をする学生は少ない。


魔力を抑える。

必要最低限。

相手を無力化するだけ。


模擬戦が終わる頃には、

床に焦げ跡が残り、

空気に微かな血の匂いが混じっていた。


怪我人が出ないよう、調整はされている。

それでも、匂いは消えない。


「……お前」


教官が呼ぶ。


俺は前に出た。


「名前」


「ラウル・アインハルト」


一瞬、間があった。


「……経験者か?」


「生き残ってきただけです」


嘘ではない。


教官は、それ以上聞かなかった。

ただ、短く頷く。


「魔術科は、お前みたいなのを欲しがる」


その言葉は、褒め言葉ではない。

警告だ。


席に戻ると、周囲の視線が刺さる。

距離を測る目。

警戒の目。


構わない。


俺は、窓のない壁を見つめた。


(セナは……今頃、どんな顔で座ってる)


地味で、静かな教室。

壊さない魔術。


――対照的だ。


でも、それでいい。


俺が壊す。

前に立つ。

血と魔力を引き受ける。


その分、

後ろにいる彼女は、手を汚さなくていい。


初日の魔術科は、

最初から、血の匂いがした。


そして俺は、

その匂いに、慣れすぎている自分を自覚していた。



ラウル視点

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