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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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学園初日の朝

朝の光は、思ったよりも静かだった。

宿の小さな窓から差し込む淡い日差しが、床に細い線を描く。

鳥の声が一つ、遠くで鳴いて、すぐに消えた。


目を覚ますと、天井がある。

昨日と同じ天井。

同じ部屋。

同じ朝。


……でも、空気が違う。


隣を見ると、ラウルはもう起きていた。

背中を向け、鞄を開いている。

動きは静かで、無駄がない。


私は上体を起こし、ベッドに腰掛ける。

足元の冷たさが、やけに現実を連れてくる。


「……おはよう」


声をかけると、ラウルが振り向いた。


「おはよう、セナ」


低く、落ち着いた声。

いつもと同じ。

なのに、どこか線が引かれたみたいに感じる。


部屋の隅、椅子の背にかけられた制服が二着。

色も、形も、違う。


私のは、変成科のローブ。

動きやすさを重視した軽めの布で、落ち着いた色合い。

魔術師らしい、と言われればそうだ。


ラウルのは、魔術科――戦闘寄りの装い。

布地は厚く、要所に補強が施されている。

前に出る人間の服だ。


まだ着ていないのに、

それだけで役割が見えてしまう。


「……着替える?」


私がそう言うと、ラウルは一拍置いた。


「先にいい」


短い言葉。

譲る、というより、決めている。


私は頷いて、ローブを手に取る。

布を広げた瞬間、少しだけ深呼吸した。


これを着たら、

私は“学園の変成科の学生”になる。


袖を通す。

布が肩に乗り、背中をなぞる。


……軽い。


でも、その軽さが、少しだけ不安だった。


鏡の前に立つ。

見慣れた顔。

でも、服が違うだけで、印象が変わる。


後ろで、衣擦れの音がした。


振り返ると、ラウルが着替えている。

留め具を一つずつ確かめる手つきは、真剣そのものだ。


その姿を見て、胸の奥がきゅっと鳴った。


同じ部屋。

同じ朝。

でも、もう同じ場所へは行かない。


「……似合ってる」


先に口を開いたのは、ラウルだった。


私を見て、短くそう言う。


「そっちも」


返すと、ほんの少しだけ目を細めた。


「ありがとう」


それ以上、言葉は続かない。


身支度を終え、鞄を持つ。

部屋を出る準備は、あっけないほど早い。


扉の前で、一瞬だけ立ち止まる。


「……行こっか」


私が言うと、ラウルは頷いた。


廊下に出る。

朝の学園は静かで、広い。

石の床に足音が響く。


並んで歩く。

肩が触れそうで、触れない距離。


曲がり角が見えてくる。

ここで、道が分かれる。


変成科の棟は、左。

魔術科は、まっすぐ。


わかっていたはずなのに、

足が、ほんの一瞬だけ止まった。


ラウルも、同じだった。


「……昼には会える」


彼が言う。

慰めでも、約束でもない。


事実を、そのまま。


「うん」


私は笑って頷く。


「ちゃんと、ご飯食べてね」


「セナもだ」


短い会話。

でも、それで十分だった。


一歩、踏み出す。


私は左へ。

ラウルは、前へ。


振り返らない。

振り返らないと、決めた。


制服が違う。

進む道も違う。


でも、同じ朝を過ごしたことは、消えない。


背中に、視線を感じた気がして、

それでも私は歩き続けた。


――学園初日。

静かで、はっきりとした断絶の朝だった。

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