元ベイビーズ
気が付いたら、見知らぬ天井だった。
白い。
やけに高い。
神殿特有の、ひんやりした空気が肺に入ってくる。
「……頭、痛いな……」
そう思って、
ちっこい――はずの手で額を押さえようとして。
……ん?
視界に入ったのは、
白くて、指の長い、やたら綺麗なお手てだった。
あれ?
ぐっぱ。
ぐっぱ。
指が、ちゃんと開く。
関節が、滑らかに動く。
……なんぞ、これは。
混乱していると、横から穏やかな声が降ってきた。
「お目覚めですね」
顔を向けると、
あの女神官が、にこやかに立っている。
「意識、成長、魔力循環に問題ありません」
「成人、おめでとうございます」
にっこり。
つられて、私もにっこり返した。
…………
数秒後。
「え?」
声が出た。
ゆっくりと、身体を起こす。
布団――というより、神殿仕様の寝台から降りる。
視界が、高い。
床が、遠い。
「……え?」
隣を見る。
そこには、
さっきまで赤子だったはずの“元ベイビーズ”が並んでいた。
いや、違う。
並んでいるのは、成人した少女たちだ。
皆々、女の子らしい美の曲線をたたえ、
それぞれが自分の身体を確かめるように、手足を動かしている。
「わ……背、伸びてる……」
「声、変じゃない?」
「髪、長っ!」
あちこちで、ざわめきと喜びの声。
……思考は?
赤子のままなのか?
どうやら、この成人式という儀式は、
身体だけでなく、精神にも作用するらしい。
霧が晴れるように、
赤子時代の記憶と、これまで学んできたことが、
一気に巡って“成長の記憶”として定着する。
……らしい。
らしい、のだが。
私は、元から冴えていた。
前世持ち。
思考力、最初から成人。
だから、違いがわからない。
「……なんで私だけ、感動薄いの?」
疑問を抱えていると、
絹のような、さらさらしたワンピースが配られた。
色は淡い白。
肌触りがよく、身体の線を自然に包む。
素っ裸、卒業。
人生百年赤子だった身としては、
服を“自分で着る”だけで感慨深い。
部屋の奥には、大きな姿鏡が置かれていた。
皆、我先にと鏡の前へ向かい、
成長した自分の姿を見て、歓声を上げている。
……い、いざ。
ごくり、と喉が鳴った。
両親の遺伝子を信じろ、私。
そーっと、鏡の前に立つ。
映ったのは――
さらさらの銀髪。
二重ぱっちりの蒼い瞳。
艶のある肌。
手を胸元に当てると、
掌にしっかり収まる存在感。
くびれた腰。
丸みを帯びたお尻。
すらりと伸びた手足。
「……間違いなく、母似の美女だ!」
「瞳は父似か!」
思わず、小声で実況する。
テンションが、妙に高い。
現実感が、追いつかない。
こうして、
意味がよくわからないまま、成人式は終わった。
――と思ったら。
「え? まだ帰れないの?」
女神官の説明によると、
成人後の一年間は、神殿で過ごす決まりらしい。
基礎教養、魔力制御、世界常識。
「義務教育、ですね」
なるほど。
異世界、ほんと不思議。
赤子百年やって、
次は神殿留学ですか。
……濃いな、人生二周目。




