ふたりで眠る夜
学園は、想像していたよりもずっと広かった。
門をくぐった瞬間から、
建物の数、道の分岐、行き交う人の多さ。
ここで過ごすのだと思うと、胸の奥が少しだけざわつく。
長命種の学園卒業はいつ?
――なんて、よく聞かれるけれど。
答えは、三年。
「短っ」
思わず口にした私に、案内役が笑った。
「濃いですよ。王立学園の三年は」
……想像できる。
手続きを終えて、
私たちはまた馬車に揺られることになった。
神殿から、実家まで。
二日分の道のり。
窓の外を流れる景色は、
来た時と同じはずなのに、少し違って見えた。
行き先が決まったからだろうか。
戻る場所と、向かう場所が、はっきりしたせいかもしれない。
「……静かだな」
隣に座るラウルが、ぽつりと言う。
「考え事?」
「少し」
それ以上は言わない。
聞かない。
そういう距離感が、もう自然だった。
実家に着くと、
両親は予想通りの反応だった。
「まぁ! おめでとう!」
「二人とも合格なんて、やっぱりね」
報告を終えると、すぐに荷造りの話になる。
「時間はたっぷりあるから、留年しても大丈夫よ!」
「三年で卒業するから!」
即答した私に、両親は顔を見合わせて笑った。
「学園が好きで、そのまま居座る子もいるのよ」
「研究に没頭したり、教える側に回ったりな」
……ものずきな人、いるんだな。
長命種、恐るべし。
夜。
いつものように、
特別な言葉もなく、
特別な理由もなく。
私たちは同じ部屋で、同じベッドに入る。
日常になった、ふたりで眠る夜。
でも。
布団に入った途端、
ラウルの腕が伸びてきて、腰に回される。
ぎゅ。
いつもより、少しだけ強い。
「……近い」
抗議すると、
背後から低い声が落ちてきた。
「離れるつもりはない」
それだけ。
理由も、説明もない。
でも、十分だった。
学園では、別の科。
別の場所。
別の役割。
それでも、夜だけはここに戻る。
私は何も言わず、
その腕の中に身体を預ける。
呼吸の音。
体温。
確かに、ここにいるという実感。
抱きしめる力が、
ゆっくり、ゆっくりと緩んでいく。
まるで、
“ここにいる間は大丈夫だ”と、
自分に言い聞かせるみたいに。
「……おやすみ」
「おやすみ、ラウル」
静かな夜だった。
けれど、
確かに境目の夜だった。
この先、
昼は別々の道を歩く。
それでも今は――
同じ夢の手前で、
ふたり、同じ眠りに落ちていった。




