進路で真剣に悩む
王立学園と聞いて、私は完全に勘違いしていた。
「魔術師が通う学園」
――では、ない。
正確には、
ルクス王立学園。
魔術師だけじゃない。
剣を振るう者も、弓を引く者も、道具を作る者も、未来を覗く者も。
要するに、国の中枢を担う人材をまとめて育てる場所だった。
「……聞いてない」
広げた案内冊子を見ながら、私は真顔で呟いた。
横でラウルが、淡々と補足する。
「言ってなかっただけだと思う」
ひどい。
冊子の最初のページには、でかでかと書いてある。
――学科一覧。
まずは、王道。
第一科・騎士科
剣術、重装備、身体強化。前衛タンクの王道。
「はい、強い」
即断。
第二科・魔術科
火・氷・雷。火力特化の攻撃魔法。
「はい、ロマン」
ぶっぱなしたい。
第三科・治癒魔術科
回復、蘇生、状態異常解除。パーティーの命綱。
「はい、胃が痛くなりそう」
責任重大。
第四科・召喚科
精霊・魔獣召喚。遠隔戦闘と偵察。
「はい、かっこいい」
夜中に一人で詠唱してそう。
第五科・錬金術科
ポーション、爆弾、支援アイテム。
「はい、縁の下」
でも絶対必要。
第六科・変成科
物体・生体変形。掃除、修理、生活万能。
「……え、最強では?」
地味だけど、日常無双。
第七科・幻術科
幻覚、隠密、分身。
「やばい匂いがする」
絶対トラブルメーカーいる。
第八科・魔導工科
魔法道具、ゴーレム作成。
「技術者枠!」
国家案件。
第九科・弓術科
遠距離物理+魔力矢。
「物理と魔法のいいとこ取り」
安定感。
第十科・聖騎士科
騎士+光魔法。浄化と正義。
「信念が重そう」
胃が痛い(二回目)。
第十一科・死霊科
アンデッド操縦、呪い。
「……闇」
冊子の文字まで黒い気がする。
第十二科・予知科
未来視、探知、占い。
「知りすぎるのも大変そう」
絶対眠れない。
ここまで読んで、私は冊子を閉じた。
「……多い」
「多いな」
ラウルも同意する。
そして、最後のページ。
ひときわ目立つ枠。
――特別選抜・オールラウンダー科。
全科目横断。
攻撃、防御、治癒、補助、理論。
選ばれし者のみ。
「……出た、エリート中のエリート」
思わず遠い目になる。
「魔術科の完成形、みたいな顔してる」
「顔はしてるな」
「でも顔だけで入れないやつ!」
私は机に突っ伏した。
「異世界で魔術師やっほー!って思ってた昨日の私を殴りたい!」
ラウルが小さく肩を揺らす。
「でも、どこも悪くない」
「悪くないけど、悩む!」
選択肢が多すぎる。
治癒もいい。
守るのは嫌いじゃない。
変成科の生活最強感も捨てがたい。
攻撃魔術も、夢がある。
「……学園、甘くなかった」
「最初からそういう場所だ」
現実的な声。
私は深呼吸した。
「でもさ」
顔を上げて言う。
「ちゃんと“向き”を見てくれるってことだよね」
「そうだな」
「押し込まれるわけじゃない」
「試験は、配属のためだ」
その言葉に、少しだけ安心する。
「……よし」
私は背筋を伸ばした。
「悩むけど、逃げない」
ラウルが、ちらりとこちらを見る。
「それでいい」
窓の外では、風に揺れる木々。
学園への道は、まだ遠い。
でも、
選択肢があるということ自体が、
悪くないと思えた。
こうして私は、
ルクス王立学園という現実の塊に、
真正面から向き合うことになったのだった。
――悩む未来込みで。




