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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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魔術の基礎習得

朝の食卓に残った、あの微妙な空気。

言葉にすれば一瞬で壊れてしまいそうな沈黙を、

私はえいやっと放り投げた。


「よし!今日もやるよ!」


庭先に出て、深呼吸。

朝露の残る草の匂い、ひんやりした空気。

空は高く、雲は薄く、魔術の練習日和

――ということにしておく。


「唸れ!両親の遺伝子!!」


拳を握って叫ぶと、

ラウルが一拍置いてから、くすっと笑った。


「気合は十分だな」


「十分すぎるくらいだよ。魔術は気合!」


……と、言い切りたいところだが、現実は地味だ。

魔術の基礎は、相変わらず地味。

呼吸、集中、感覚、巡り。


ぽっ。


……何も起きない。


「くっ……!」


悔しさに唇を噛む横で、

ラウルはもう、目を閉じて静かに呼吸している。


そして。


ぽっ。


小さな光が、指先に灯った。


「え!? ちょっと!?」


「……できた」


淡々とした声。

でも、その口元は、ほんの少し誇らしげだ。


「ずるい!なんで先にできるの!」


「セナ、力はある。ただ、流し方が雑」


「ぐぅ……」


正論は心に刺さる。


「……教えようか?」


少し間を置いて、ラウルが言った。


悔しい。

悔しいけど。


「……お願いします」


素直に頭を下げる私。


「じゃあ、力抜いて」


ラウルは私の背後に回る。

芝生に座る私の、すぐ後ろ。


(あれ?)


普通、こういうのって、前に座って向き合って――

とかじゃない?


疑問を口に出す前に、

ラウルの腕が、回ってきた。


私の手を、包む。


「……っ」


背中に感じる体温。

腕越しに伝わる、確かな存在感。


距離、近い。


「動かないで」


低い声が、耳元に落ちる。


「ほら、集中」


言われるがまま、私は瞳を閉じた。


「ゆっくり……深呼吸」


吸って。

吐いて。


「身体の熱を感じて」


……ある。

確かに、胸の奥が、ほんのり温かい。


「そう……いい感じ」


褒められると、素直に嬉しい。


「そのまま、巡らせて」


「右手から、心の臓を通って、左手」


言葉に導かれて、意識が動く。

熱が、流れる。


「あ……」


「そのまま、お腹へ通して」


「下へ……足へ……つま先」


巡ってる。

さっきまで、ぼんやりしていた感覚が、はっきりする。


「そのまま、身体を一周させた熱を、右手へ」


ラウルの声が、近い。

落ち着いているのに、どこか熱を帯びてきている。


「指先……熱を……そう」


今だ。


意識を集中させる。


ぽっ。


小さな魔術陣が、淡く光った。


「できた!!」


思わず声が跳ねる。


「うん。ちゃんとできてる」


耳元で、ラウルが言った。


近い。

近すぎる。


「……俺の声で、感じてくれて嬉しい」


一瞬、理解が遅れた。


「……は?」


次の瞬間。


「やめーい!!!」


私は盛大に前へ飛び出した。

芝生に手をついて、勢い余って転びそうになる。


「ちょ、セナ!」


振り返ると、

ラウルが一瞬、きょとんとして――


それから、耳まで赤くなった。


「……集中させるつもりだった」


「途中から、違う集中が混ざってたでしょ!」


「……否定はしない」


あっさり認めた。


「もう!真面目にやってたのに!」


「真面目だったよ。だから、余計に」


……何が余計に、だ。


私は顔を熱くしながら、もう一度深呼吸する。


でも。


さっきより、確かに分かる。


魔術の流れも。

自分の中の熱も。


そして――

ラウルの声が、やたらと記憶に残っていることも。


(……困る)


でも、できたのは事実だ。


小さく灯る光を見つめながら、

私は心の中で、そっとガッツポーズをした。


魔術の基礎。

ようやく、最初の一歩。


そして多分、

これから先も、

色々な意味で、ラウルは近い。




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