好きにしていいの?
灯りを落とした部屋は、音を吸い込む。
昼の名残はもうなくて、
あるのは呼吸と、隣にいるという事実だけ。
布団の上で、距離は近い。
でも、触れてはいない。
触れなくても、そこにいるとわかる距離。
「……好きにすれば?」
彼女の声は、投げやりで、
少しだけ眠気を含んでいた。
拒んでいない。
でも、求めてもいない。
だから、俺は動けなくなる。
冗談で返すこともできた。
軽く受け流して、いつもの位置に戻ることも。
それでも、
確認せずにはいられなかった。
「……本当に?」
問いは短く、低く。
自分に言い聞かせるみたいな声になった。
返ってきたのは、
答えじゃなくて、選択肢。
「寝るの、寝ないの、どっち?」
逃げ道のある言い方。
でも、離れる前提じゃない。
「一緒に寝る」
考えるより先に、言葉が出た。
今だけだと、彼女は言う。
いずれ離れると、あっさり付け足す。
それでも、
今は、ここにいる。
同じ部屋で、同じ夜を過ごしている。
それだけで、胸の奥が静かになる。
彼女が背を向ける。
呼吸が、少しずつ整っていく。
俺は距離を詰める。
触れないまま、離れない位置へ。
「……おやすみ、セナ」
返事はない。
もう、眠りに近い。
唇が、ほんの一瞬、触れた。
確かめるためでも、欲のためでもない。
ここにいる、という合図。
それ以上は、しない。
抱き寄せる腕も、強くしない。
逃げない程度の、ただの重さ。
「今日は……ここまで」
誰に言うでもなく、決める。
好きにしていいと言われた夜ほど、
選ばないことを選ぶ自分がいる。
それが、
彼女を守る一番確かなやり方だと、
もう知っているから。
当たり前になりつつある距離。
でも、決して雑には扱えない夜。
静かに、深く、
俺はそのまま目を閉じた。




