結婚式は神殿で
メレク神殿。
白い石畳に、柔らかな光が満ちている。
高い天井。澄んだ空気。
何度もお世話になったこの場所が、今日はやけに優しい。
――いつもありがとう、神殿。
そんなことを本気で思いながら、セナは隣に立つ存在を見上げた。
銀色の髪。
落ち着いた佇まい。
でも、指先はほんの少しだけ緊張している。
「……ラウル」
小さく呼ぶと、すぐに視線が返ってくる。
翠の瞳が、まっすぐこちらを見た。
逃げない。
揺れない。
今まで何度も確かめてきたその目だ。
神官が、穏やかな声で言葉を紡ぐ。
「良き日に、良き縁を結ばれし二人よ」
静まり返る神殿。
家族。
仲間。
遠くで、変成科の面々がそわそわしている気配もする。
「互いを支え、共に生きることを誓いますか」
セナは、迷わなかった。
「誓います」
少し遅れて、でも確かに。
「誓う」
ラウルの声が響く。
神官は、満足そうに頷いた。
「それでは――
誓いの口付けを」
一瞬、視線が絡む。
ふっと、どちらからともなく微笑んだ。
――大丈夫。
何があっても。
何度壊れても。
ここまで来た。
唇が、そっと重なる。
その瞬間。
――眩しい。
いや、眩しいなんてものじゃない。
「ちょ、なにこれ!?」
思わず声が出るほど、視界が白く弾けた。
光。
光、光、光。
金色とも銀色ともつかない粒子が、空から降り注いでくる。
神殿全体が、きらきらと輝き始めた。
ざわめく参列者。
「えっ、なに?」
「演出じゃないよね!?」
神官が目を見開き、声を上げる。
「こ、これは……!」
膝をつきかけながら、必死に言葉を探す。
「二柱の……祝福により……!」
セナは、一瞬きょとんとした。
「……は?」
隣を見る。
ラウルは、目を細めて光を見上げていた。
「……Two deities」
ぼそり。
「え、なに?」
「今さら?」
「ずっと見てた」
平然と言われた。
「見てた!?」
「胃に来てたらしい」
「聞いてない!!」
でも、怒る暇もない。
光は、温かい。
包み込むようで、拒絶しない。
頭の奥に、やたらテンションの高い気配が混じる。
――『キターーーー!!』
――『ここで祝福しないでいつするの!?』
――『ほら!ハッピーエンド!!』
……あ。
「あんたたちか!!」
叫んでも、返事はない。
代わりに、光がさらに強くなった。
神官は、半ば呆然としながらも、声を整える。
「……神々の祝福を受けし夫婦として、
ここに、結びを宣言いたします」
拍手。
いや、拍手どころじゃない。
神殿中が、祝福ムード一色だ。
「すご……」
「前代未聞……」
セナは、思わずラウルの腕を掴んだ。
「めちゃくちゃ祝福されたんだけど!?」
「俺たち、不運死回避したから」
「理由それ!?」
ラウルは、少しだけ照れたように、でも誇らしげに笑う。
「……俺の、妻」
「はいはい。私の、お嫁さん」
光は、やがて静かに収まっていった。
でも。
その余韻は、確かに残っている。
神殿を出ると、春の風が吹いた。
世界は、何も変わっていない。
それでも。
確実に、何かが終わって、
確実に、何かが始まった。
「ねえ、ラウル」
「なに」
「大変な人生になりそうだね」
ラウルは、即答だった。
「一緒なら、問題ない」
――そういうところだぞ。
セナは、笑って、彼の手を握り返した。
こうして。
不運死する幼馴染を救った結果、
懐かれすぎて、
神々にまで祝福される結婚式は――
とんでもなく眩しい幕引きとなった。




