絡めた指先が離れない
ラウル
指先が、触れた。
それだけで、わかった。
――もう、離せない。
絡めたわけじゃない。
最初は、偶然だったはずだ。
机に広げた資料を一緒に見ていて、
視線を落とした拍子に、指が重なっただけ。
なのに。
離す、という選択肢が、浮かばなかった。
彼女は何も言わない。
視線も、そのまま前を向いている。
気づいているのか、いないのか――わからない。
でも、指は、そこにある。
温度が、伝わる。
脈が、微かに触れる。
それだけで、胸の奥が、静かに満たされていく。
……ああ。
俺は、こんなことで、救われてしまうのか。
絡めるつもりはなかった。
強く握るつもりも、なかった。
ただ、
この指先が、俺のそばにあるという事実だけで。
戦場で血に塗れた時より、
命のやり取りをした時より、
今のほうが、ずっと怖い。
失う想像が、鮮明すぎる。
だから、無意識に、少しだけ力が入った。
逃げないでほしい。
行かないでほしい。
言葉にすれば、壊してしまいそうで。
口に出す代わりに、指先に、気持ちを込める。
……気づいてるよな。
彼女が、ほんの少しだけ、指を動かした。
逃げる動きじゃない。
――絡めてきた。
息が、一瞬、止まった。
ああ、そうか。
許された。
そう思った瞬間、
世界が、また色を取り戻した気がした。
誰にも見えない場所で、
誰にも奪われない接点で。
俺は、彼女と繋がっている。
視線は合わない。
言葉もない。
それでいい。
指先が、離れない。
それだけで、
今日も生きていける。
――俺はもう、
この人に溺れている。
静かに。
深く。
抜け出す気など、最初からなかった。
そう。あの本です。




