残っている実感
目を覚ました瞬間、
まず、違和感があった。
ベッドが、くしゃくしゃだ。
シーツも、毛布も、きれいに整えられていない。
――ああ。
そうだった。
身体を動かそうとして、やめる。
腰のあたりに、鈍い重さが残っている。
熱が、まだ抜けきっていない。
喉が乾いて、息を吸うと、
汗と体温が混ざった、確かな匂いが鼻を突いた。
昨夜のままの、私たちの匂い。
消えていない。
ベッドに染みついた温度が、
まだ、ここにある。
動くたびに、
筋肉の奥が、じんわりと自己主張する。
「……」
声を出そうとして、やめた。
恥ずかしい。
身体が、はっきり覚えている。
触れられた場所。
息を乱された感覚。
自分の声が、どこまで出てしまったか。
全部。
忘れてくれない。
隣を見る。
ラウルは、まだ眠っている。
シーツを握る指。
私の方に向いたままの体勢。
寝ているのに、距離が近い。
――近すぎる。
頬が、じわっと熱くなる。
昨夜、
この距離で、
この人に、全部を見られた。
そして、
私は、それを拒まなかった。
むしろ。
思い出そうとして、
慌てて、考えるのをやめる。
これ以上は、
朝から心臓がもたない。
身体を起こそうとすると、
腰に回っていた腕が、少し動いた。
ぎゅ、ではない。
でも、離す気もない。
無意識の力。
それが、逆に、くる。
「……起きてないよね?」
小さく、そう言った。
返事はない。
でも、腕は緩まない。
……ずるい。
そっと、その腕を外そうとして、
また、身体の違和感に気づく。
歩いたら、
確実に、変だ。
自覚が、追い打ちをかけてくる。
――ああ、本当に。
私は、
“初夜”を越えたんだ。
一度、深呼吸する。
昨夜のことを、
軽い出来事にする気はない。
でも。
このまま見つめ続けるのも、
正直、無理だ。
顔が、熱い。
シーツを引き寄せて、
自分の肩を隠す。
今さら。
今さらなのに。
ラウルが、ゆっくりと目を開けた。
目が合う。
一瞬。
それだけで、
昨夜の記憶が、まとめて押し寄せる。
「……おはよう」
低い声。
掠れている。
「……おはよう」
返す声が、
思ったより、小さかった。
沈黙。
視線を、どこに置けばいいかわからない。
身体は、まだ、彼の熱を覚えているのに。
「……」
ラウルが、何か言いかけて、やめた。
その間が、
余計に、甘くて、気まずい。
私は、先に視線を逸らした。
「……とりあえず」
喉を整える。
「……シャワー、浴びたい」
本音だ。
身体に残っているものを、
全部、流したい。
でも、同時に。
流してしまうのが、
少しだけ、惜しい。
ラウルが、短く頷く。
「……一緒に、行く?」
冗談でもない。
軽くもない。
ただの、確認。
私は、一瞬だけ迷ってから、
首を振った。
「……後で」
今は、無理。
目が合ったら、
また、昨夜に引き戻される。
ラウルは、それ以上何も言わず、
静かに腕を引いた。
その瞬間。
少しだけ、寒い。
――あ。
こんなところまで、
身体が覚えてしまっている。
ベッドに残る、
乱れた跡と、匂いと、温度。
全部が、
「昨夜は確かだった」と主張している。
私は、シーツを見下ろして、
小さく息を吐いた。
「……すごいこと、しちゃったな」
照れも、甘さも、
身体の実感も、逃げ場がない。
でも。
後悔は、なかった。
ただ、まだ。
どう振る舞えばいいのか、わからないだけだ。




