君に、熱く猛る想いを沈めたい
湯気が、まだ身体にまとわりついている。
二人で浴びたシャワーの余韻が、肌の奥に残ったまま、寝室へ戻った。
灯りは落としきらず、柔らかな橙だけが、壁と天井に揺れている。
「……狭いね」
そう言ったのは、どちらだったか。
ベッドに腰を下ろすと、布の感触がやけに現実的で、胸の奥が小さく跳ねた。
ラウルは、まだ立ったままだった。
緊張しているのが、背中から伝わる。
「寝ないの?」
軽く問いかけると、視線が合う。
逃げ場を探すようで、それでも逸らさない目。
「……抱き枕じゃなくて」
一拍、置いて。
「セナが、欲しい」
その言葉は、静かだった。
でも、逃げ場を塞ぐには十分だった。
「おいで」
腕を広げる。
言い切るように、柔らかく。
「私の可愛いお嫁さん」
ラウルは、一瞬だけ息を詰めてから、ベッドに滑り込んできた。
距離が、消える。
体温。
呼吸。
互いの鼓動が、すぐそばで重なる。
「……私、実はまだ根に持ってる」
ぽつりと告げると、腕の中の身体が、びくりと強張った。
「なにを……?」
「初めてを、私以外に捧げたこと」
沈黙。
わかりやすいほど、血の気が引く。
その反応に、思わず小さく笑ってしまった。
耳元に口を寄せ、声を落とす。
低く。
ゆっくり。
熱を、ほんの少しだけ含ませて。
「――君に、
熱く猛る想いを沈めたい……」
空気が、変わる。
ラウルの呼吸が乱れ、腕の力が強まる。
言葉だけで、十分だった。
唇が触れた。
最初は軽く、確かめるように。
角度を変えて、もう一度。
吐息が絡み、距離がさらに縮まる。
触れ合うたび、理性が少しずつ削れていく。
額。
頬。
首元。
重ねてきた時間をなぞるみたいに、口付けが落ちていく。
布越しでも、わかる熱。
触れられる前から、身体が覚えてしまっている。
「……受け取ってくれるよね」
そう囁くと、ラウルは、逃げなかった。
返事の代わりに、強く抱き締められる。
離す気のない腕。
「離れない」
それは、約束じゃない。
宣言だった。
灯りが、さらに落とされる。
視界が、ゆっくりと夜に沈む。
言葉は、そこで終わった。
――あとは、朝まで。
互いを確かめるように、
逃げ場のない温度の中で。
夜は、深く、静かに、二人を包み込んだ。




