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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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寮の前に立つ幼馴染

解散の号令が響いて、野外訓練は終わった。


その一言だけで、張り詰めていた糸が、ぶつりと切れる。

夕陽が低く、学園の石壁を赤く染めている。

その光が、疲れ切った身体にじんわりと染み込んできて、

ようやく「戻ってきた」のだと実感した。


寮へ向かう足取りは、重いはずなのに、不思議と止まらなかった。


――いた。


寮の前。

影が長く伸びる場所に、幼馴染が立っていた。


ラウルは、何も言わない。

ただ、こちらを見ている。


声をかける前に、手を取った。


強くも、乱暴でもない。

けれど、逃がさない温度で。


ラウルは無言のまま手を引かれている。

私は自分の部屋へ向かう。


扉を開け、ラウルを中に招き入れ、鍵を掛けた。


がちゃん、という音が、やけに大きく響く。


「……脱いで」


自分の声が、思ったより落ち着いていて、少し驚いた。


ラウルが、目を見開く。


「確かめたいの」


それだけ言えば、意味は通じたらしい。

ゆっくりと外套を外し、シャツに手をかける、その動きがぎこちない。


――治癒魔術科、すごいな。


傷跡は残っているけれど、致命的だったはずの痕は、もう“過去”のものになっている。


「……もう、痛くない?」


「大丈夫」


即答だった。


それでも。


「本当に……生きてるよね?」


自分でも、情けない質問だと思う。

でも、聞かずにはいられなかった。


恐る恐る近づいて、ラウルに触れる。

胸元に耳を当てると、確かな鼓動があった。


どくん。

どくん。


それだけで、喉の奥が詰まる。


ぴたりと寄り添った私に、ラウルの腕が動きかけて――止まる。


ためらい。


その仕草が、胸に刺さった。


「嫁に、抱き締めてもらいたいな」


冗談みたいに言ったつもりだった。


「……抱き締めて、いいの?」


震える声。


「結婚、するんでしょ?」


「……する」


短く、迷いのない答え。


思わず、くすっと笑ってしまった。


「私たち、すごく汚れてるよね」


戦場で。

血を見て。

命を奪って、奪われかけて。


それでも、こうして生きている。


ラウルの腕が、今度こそしっかりと回ってきた。

強く、でも壊れないように。


胸に押し付けられる体温が、現実を教えてくれる。


「……一緒に、シャワーしてくれるよね?」


顔を上げて言うと、ラウルが瞬いた。


「断ったら、二度と一緒に入らないからね?」


脅し半分、本音半分。


「それって……」


「夫婦になるんでしょ?」


間髪入れずに返す。


ラウルは、少しだけ目を伏せてから、静かに頷いた。


「……うん」


夕陽が、カーテン越しに部屋を染めている。

外では、誰かの笑い声が遠くに聞こえた。


野外訓練は終わった。


そして。


私たちは、ここから、また始める。



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