野外訓練終了
野外訓練が、終わった。
そう認識したのは、学園の正門が見えた瞬間だった。
見慣れた石畳。
高い塀。
当たり前のようにそこにあるはずの景色。
それを見た途端、胸の奥に溜め込んでいたものが、すとんと落ちた。
私たちは、戻ってきた。
撤退後の後始末。
魔物の死骸処理。
壊れた拠点の確認。
教官や上級生たちによる安全確認。
全部、きっちりやっていたら――
暦は、きっちり三ヶ月を指していた。
「ほんとに……三ヶ月だね」
誰かが、ぽつりと呟く。
変成科A班だけじゃない。
全科合同の野外訓練に参加した生徒たちが、ぞろぞろと門をくぐる。
皆、顔色が違う。
疲労。
達成感。
恐怖。
安堵。
混ざり合って、うまく言葉にならない表情。
私自身も、同じだった。
生き残れた。
生かされた。
どちらが正しいのかは、まだわからない。
ただ――
帰ってきた。
それだけで、十分だった。
「もう……しばらく外、無理……」
「明日? 引きこもるに決まってるでしょ」
「週末は寝る。ひたすら寝る」
あちこちから、そんな声が聞こえてくる。
笑いが混じるけれど、どれも本音だ。
私も、同じ。
身体は動く。
でも、心が追いついていない。
野外で張り詰め続けていた感覚が、
学園という“安全な箱”に戻ったことで、一気に緩み始めている。
それが、少し怖い。
ふと、歩調を落とす。
隣を見ると、A班の皆も、どこか静かだった。
シアンは、いつものおしゃべりを控えている。
ファルケは、相変わらず寡黙だけど、視線が鋭い。
レックは……少し、考え込むような顔。
それぞれが、それぞれの三ヶ月を抱えている。
私は、無意識に拳を握った。
血の匂い。
怒号。
轟音。
頭をよぎるたびに、胸の奥が、きゅっと締まる。
でも。
「……無事で、よかったね」
自分の声が、思ったよりも穏やかで、少し驚いた。
誰かが、頷く。
「ほんとに」
「それだけは、間違いない」
そう。
無事で、よかった。
誰も欠けていない。
誰も、ここにいないままにならなかった。
それは、奇跡みたいな結果だ。
寮が見えてくる。
ああ、帰ってきたんだな、と、ようやく実感が追いついてきた。
扉を開ければ、いつもの廊下。
いつもの階段。
いつもの部屋。
全部、同じ。
それなのに。
もう、同じじゃない。
私たちは、確かに変わった。
戦場を知って。
生と死の境目を見て。
守られ、守り、選択を重ねて。
それでも、ここに戻ってきた。
「終わったんだね」
誰かが、そう言った。
私は、静かに頷く。
終わった。
そして。
ここから、また、日常が始まる。
明日と明後日は、週末。
引きこもる人もいるだろう。
寝続ける人もいるだろう。
私も……少し、休もう。
無事でよかった。
その言葉を、胸の中で、もう一度だけ繰り返した。




