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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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告白は戦場で

世界が、うるさい。


怒号。

魔術の炸裂音。

獣の咆哮。

土を踏み潰す振動。


全部が一度に押し寄せてきて――

それでも、私の視界には、ひとつしか映っていなかった。


倒れている身体。


赤い色が、地面に広がっている。


「……ラウル」


声が、掠れる。


膝をついて、身体を抱き起こした瞬間、

はっきりとわかった。


――時間が、ない。


呼吸が浅い。

脈が、弱い。

血が、止まっていない。


「……大丈夫、大丈夫……」


言葉とは裏腹に、手が震える。


変成魔術陣を、即座に展開。

延命維持。

止血。

最低限の循環確保。


再生までは――まだ、届かない。


「治癒魔術科!!

 誰か来て!!」


叫ぶ声が、戦場に飲み込まれる。


もう一度、叫んだ。


喉が裂けそうになるほど。


「お願い!!

 治癒魔術科――!!!」


ラウルが、薄く目を開いた。


焦点が、合っていない。

それでも。


私を、見た。


伸ばされた指先が、空を掻く。


――触れたい。


その動きが、痛いほどわかるのに、

途中で、止まった。


こんな時まで。


「……触って」


思わず、言っていた。


「今は、いいから……」


その指を、両手で包み込む。


冷たい。

でも、まだ、生きている。


呼吸が、荒くなる。


「セナ……」


声が、掠れている。


「……愛してる」


――ずるい。


こんな時に言うなんて。


視界が、滲む。


でも、私は、逸らさなかった。


「私も愛してる」


即答だった。


迷いは、なかった。


ラウルの目が、見開かれる。


「嫁はね」


息を吸って、言い切る。


「元気に、夫の傍に生きてなきゃダメなの」


強がりじゃない。

命令でもない。


ただの、事実。


「……結婚してくれ」


掠れた声。

必死な目。


こんな場所で。

こんな状況で。


……本当に、馬鹿。


でも。


「その申し出、受けてあげる」


そう言った瞬間。


ラウルの呼吸が、わずかに乱れた。


安堵か。

驚きか。


どちらでもいい。


「だから、死なないで」


指に、力を込める。


「生きて。

 私の夫として」


その時。


「どいて!!」


聞き慣れた声。


治癒魔術科が、走り込んできた。


即座に魔術陣が展開される。

強力な治癒。

止血。

再生。


私は、手を離さなかった。


離せなかった。


ラウルは、ぼんやりとしたまま、

それでも、確かに、笑った。


「……セナ」


「なに」


「……嫁……」


「今さら」


泣きそうになりながら、笑う。


「逃げないから」


治癒魔術科の一人が、叫ぶ。


「ビンタ!!

 意識、戻させます!!」


「待って!」


反射的に、声が出た。


……でも。


次の瞬間。


ぱん、と乾いた音。


ラウルの顔が、少しだけ揺れる。


「っ……」


「生きてるな!」


治癒魔術科が、親指を立てた。


周囲の戦場音が、少しだけ遠のく。


魔物の誘導が完了したという報告。

撤退完了の合図。


被害は、最小限。


――拠点が、消し飛んだ以外は。


私は、その場に座り込んだ。


力が抜ける。


それでも、手だけは、離さなかった。


血と泥にまみれた戦場で。


命の境目で。


私たちは、約束を交わした。


――これは、告白だ。


逃げ場も、保留も、ない。


生きるための、

たったひとつの、選択だった。



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