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不運死する幼馴染を救ったら懐かれた  作者: ChaCha


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触れられなかった指

痛みは、遅れてやってきた。


最初は、なにも感じなかった。


衝撃。

圧。

骨が鳴った感覚。


それだけが、現実感のないまま身体を通り抜けていく。


――ああ。


やったな。


そう思った。


地面が、近い。

空が、やけに遠い。


視界の端で、誰かが動いている。

怒号。

魔力の奔流。


でも、どうでもよかった。


頭の中にあったのは、ひとつだけだ。


セナ。


無事か。


それだけ。


身体を起こそうとして、気づく。


動かない。


脚も、腕も。

力が入らない。


――ああ、これは。


死ぬやつだ。


妙に冷静だった。


怖さよりも先に、後悔が浮かぶ。


触れておけばよかった。

抱きしめておけばよかった。


あの夜。

あの宿。

あの距離。


全部、自分で壊した。


なのに。


視界が、揺れた。


銀色が、飛び込んでくる。


「……セナ」


声が、喉の奥で引っかかる。

ちゃんと出たかも、わからない。


彼女は、必死だった。


膝をついて、

血に塗れた俺を見て、

目を見開いている。


――生きてる。


生きてる、よな。


そう思った瞬間、

胸の奥が、ぐっと緩んだ。


指先が、勝手に動いた。


触れたい。


確認したい。


そこにいるって。


生きてるって。


俺の、って。


伸ばす。


たった、それだけなのに。


指が、途中で止まった。


……あ?


力が、抜ける。


動かそうとしても、動かない。


震える。


こんな時まで。


こんな時にまで、

俺は――


セナの声が、聞こえる。


「大丈夫……」

「必ず、助ける……」


泣いてない。

でも、必死だ。


ああ。


この人は、

こんな状況でも、

誰かを救うことを、諦めない。


俺は。


俺は、なにをしてきた。


代わりを抱いた。

見せつけた。

傷つけた。


それでも、

この人は、俺を助けようとしている。


息が、苦しい。


肺が、うまく動かない。


視界が、暗くなったり、戻ったりする。


その中で、

言葉が、勝手に零れた。


「……セナ」


名前を呼ぶだけで、

胸が、熱くなる。


「……愛してる」


嘘じゃない。

取り繕いでもない。


今までで、一番、

剥き出しの本音だった。


次の瞬間。


世界が、止まった。


彼女が、固まった。


目を、見開いている。


――あ。


言ってしまった。


でも、後悔はなかった。


むしろ。


これだけは、伝えられた。


それでいい。


次に聞こえた声は、

はっきりと、耳に届いた。


「私も、愛してる」


世界が、壊れた。


目を見開く。


まだ、見える。


セナが、そこにいる。


俺を見ている。


ああ。


よかった。


指が、また、動いた。


今度こそ――


と思った、その瞬間。


治癒魔術の光が、視界を覆った。


誰かの声。

誰かの手。


引き離される。


「……待っ」


声にならない。


セナの姿が、遠ざかる。


触れられなかった。


最後まで。


それでも。


あの言葉は、

確かに、聞いた。


――だから。


目を閉じる前に、思った。


生きろ。


生きて、

もう一度。


今度こそ、

触れられる場所まで、戻る。


そのためなら、

この地獄も、全部、受け入れる。


暗闇が、ゆっくりと降りてきた。


でも。


完全には、落ちなかった。


彼女の声が、

胸の奥で、まだ、熱を持っていたから。


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